初めて出会う俳人、俳句

本書で扱われている88人の現代俳人というのは、いずれも現代を代表する俳人たちなのだろうが、僕にとっては未知の俳人も含まれる。海藤抱壺岸風三樓ジャック・スタム、これらの名前はこの本で初めてお目にかかったように思う。

引用されている1,800句の中にも、ここで初めて読んだという句が多い。いつもの通り、好きな句には印をつけながら読んだが、一番多く印が付いたのが、上野泰

 打ち水の流るる先の生きてをり

 考へを針にひつかけ毛糸編む

 春眠の身の閂を皆外し

 椿落つかたづをのんで他の椿

 天声の一語の如く返り花

比喩・擬人法の妙に強く感心させられる句が多い。この作者の句はもっと読んでみたい。

 

折笠美舟には次のような句があることを知って、興味を惹かれた。

 山月嗚呼妻子まず思うべきや詩思うべきや

 友よ 月下 振り返り見む 虎班の屍

これはまさに中島敦の「山月記」そのもの。作者は「山月記」の李徴になりきってその思いを詠っている。折笠美舟は李徴に自分と重なるものを見出したのだろうか。これらの句の引用されている前後文章には、美舟が原因不明の難病に侵されていく過酷な状況が述べられているが、句との関係には触れられていない。

この本は、文章中に句を引用しながら、俳人の経歴を概説するというつくりになっているが、その時々の作者の状況とそこに挙げられている句とのつながりを読み取るのが難しい。必ずしも文章が句の鑑賞の助けになってはくれないのが残念なところだ。

 

その他、印のついた句より。

 稲妻や夜も語りゐる葦と沼   木下夕爾

 こほろぎやいつもの午後のいつもの椅子   同

 手をふれてピアノつめたき五月かな   同

 なぜここにゐるかがふしぎ花筵   能村登四郎

 手をあげて足をはこべば阿波踊   岸風三樓

 巴里に煮て隠元なりき箸の先   小池文子