辻村深月作品のリアリティ

辻村深月の短編集、『鍵のない夢を見る』を読んだ。

主人公の女性たちの思考や行動に、全面的に共感できるわけではない。しかし、共感できるできないにかかわらず、彼女たちは確かに作品の中に生きている。彼女たちにリアリティが感じられるのは、その心の繊細な動きの一つ一つが丁寧に描かれているからだろうと思う。彼女たちは自分の心の動きに対して自覚的だ。それは作者の、人の内面に対する洞察力の鋭さから生まれてくるものなのだろう。

どの話も、決して後味の良い話ではないが、読むことによって、自分の中に一つの経験を加えることができたという充実感を覚えさせてくれる作品だ。