和歌

逢えない嘆き

大岡信の『第五 折々のうた』を読んでいる。 高山ゆ出で来る水の岩に触れ破れてそ思ふ妹に逢はぬ夜は 詠み人知らず 大岡信はこれを、これよりもずっと後に詠まれた、 瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳院 と「同種類の発想の歌であ…

「の」の用法について

『続 折々のうた』読了。 続 折々のうた (岩波新書) 作者:大岡 信 岩波書店 Amazon 君や来む我や行かむのいさよひに槇の板戸も閉さず寝にけり よみ人知らず 『古今集』巻十四のこの歌について、次のような解説がある。 「……行かむの」の「の」はその上でのべ…

古代の天皇の仕事

また、本棚に眠っていた本を引っ張り出して読んだ。丸谷才一「日本文学史早わかり」。 「万葉集」の巻第一の巻頭歌、雄略天皇の 籠もよ み籠持ち … この岡に 菜摘ます子 … と、それに続く舒明天皇の 大和には群山あれど とりよろふ天の香具山 … は、高校生の…

字余りの法則

佐竹昭広著『古語雑談』を読むまで、本居宣長が発見したという「字余りの法則」というものを、僕は知らなかった。(これは国語の教師として恥ずかしいことなのかもしれないが。) 「字余りの法則」とは、字余りの句中には必ず単独の母音「あ」「い」「う」「…

茂吉の万葉愛

万葉秀歌〈下巻〉 (岩波新書) 作者:斎藤 茂吉 岩波書店 Amazon 先日の『上巻』に続き、今回は『下巻』。 上巻同様、茂吉の万葉集愛があふれている。万葉集というよりも、万葉の時代そのものを愛していると言った方が良いかもしれない。 はなはだも夜更けてな…

『万葉集』を現代に生かす

斎藤茂吉の『万葉秀歌(上巻)』を読んだ。言わずと知れた、戦前からのベストセラーである。特攻隊員が携えて戦場に向かったという話をどこかで聴いたことがあった。確かに、天皇賛美の色合いは濃い。しかし、それはこの本の要素の一つに過ぎない。茂吉が格…

万葉集love💛な入門書

永井路子著、『今日に生きる万葉』は、『万葉集』愛に満ちた著者による、『万葉集』入門。 万葉の時代の人たちが、読む前よりも身近に感じられるようになる一方で、万葉の時代の男女のあり方(結婚観、生活様式)が、現代とは決定的に異なるものであったこと…

花をもめでじ

『伊勢物語』第八十八段。 むかし、いと若きにはあらぬ、これかれ友だちども集りて、月を見て、それがなかにひとり、 おほかたは月をもめでじこれぞこの つもれば人の老いとなるもの この「月」を「花」に置き換えてみると、今の自分の気持ちと重なってきま…

「秋」は「飽き」?

今日は、『伊勢物語』第68段について。 むかし、男、和泉の国へ行きけり。住吉の郡、住吉の里、住吉の浜をゆくに、いとおもしろければ、おりゐつつゆく。或る人、「住吉の浜とよめ」といふ。 雁鳴きて菊の花さく秋はあれど 春のうみべに住吉の浜 とよめり…

よしや? あしや?

今年は(というより、残りの人生)古典をもっと読んで人並みの教養を身に着けよう、などと今更ながら思い立って、まずは『伊勢物語』を最初から少しずつ読んでいる。きっかけは、「芥川」を授業で取り上げるにあたって、前後の章段を読んでみたら思いのほか…