小説

涙腺崩壊?(高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ⑤)

これも勤務校の図書館報に生徒による紹介記事が載っていた本。 青い鳥(新潮文庫) 作者:重松 清 新潮社 Amazon 濁音とカ行、タ行を必ずどもってしまう、不格好な村内先生が、心を病む生徒に寄り添って大切なことを伝えることで、状況を好転させるという話を…

まあまあ、そこそこ(高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ④)

93番目のキミ 作者:山田悠介 河出書房新社 Amazon 山田悠介は初めて読む作家で、まったく知識は持ち合わせていないが、高校生には人気があるらしい。アマゾンの「商品の説明」中には「10代を中心に圧倒的な支持を得る」とある。僕が中古店で買った文芸社文…

高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ③

本を読む女 (集英社文庫) 作者:林 真理子 集英社 Amazon 林真理子が高校生に人気があるのか、実は僕はよく知らない。でも、僕がこの本を読んだのは、高校生に勧められたから、いや、正確に言えば、勤務校の図書委員会が発行している図書館報の最新号のなかに…

スタッキング不能

スタッキング可能 (河出文庫) 作者:松田 青子 河出書房新社 Amazon 誰が主人公というわけでもなく、次々に入れ替わる登場人物たちに何か事件が起こるわけでもない。物語性というものが皆無。ただ、その登場人物たちが、世間の常識とか、「〇〇らしくあらねば…

高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ②

チルドレン (講談社文庫) 作者:伊坂幸太郎 講談社 Amazon 高校生に好きな作家、最近読んだ作品を訊ねるとよく出てくるのが伊坂幸太郎。昨年度授業を受け持った生徒の中で特に優秀だったKさんも、好きな作家として伊坂幸太郎の名を挙げていた。というわけで…

BGMのない映画

映画、「ドライブ・マイ・カー」を観た。 コミュニケーションには、その場所の力というものが働く。食卓、車、閨房…とりわけ、この映画においては車が登場人物の台詞を引き出し、登場人物同士の会話を深めるのに大きな働きをする。原作には、主人公の家福は…

同感、のち、違和感

僕の車の中には一年ほど前から、ベートーベンの弦楽四重奏曲全集(アルバン・ベルク四重奏団の7枚組)が入れっぱなしになっている。車の中ではラジオを聴くことが多いのだが(主にFM東京、たまにFM横浜)、ラジオに飽きるとCDに替える。ベートーベン…

どっち派?(高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ①)

高校生に人気のある住野よるの作品を初めて読んだ。 主人公のあっちーくん(安達くん)は分裂している。 クラスの大多数が向かっている方向(矢野さんへのいじめ)からずれないように(孤立しないように)、細心の注意を怠らずふるまう昼のあっちーくんと、…

コペル君と「先生」

君たちはどう生きるか (岩波文庫) 作者:吉野 源三郎 岩波書店 Amazon 実は先月、腰痛治療(ヘルニア)のために入院した。手術は初めての経験で不安はあったけれど、とにかく耐え難いほどの激痛が何日も続いていたので、体にメスを入れることを躊躇している場…

芸術としての私小説

本棚に眠っていた、伊藤整の『改訂文学入門』(光文社文庫)を読んだ。本書は、「あとがき」に「私は、近代日本文学、特に私小説とヨーロッパ文学とを同時に満足させうるところの、芸術の本質はなにかということを、追求した。」とあるところからわかるよう…

文学部のスロープ

作者、北村薫は二度目の大学生活を、今度は女学生になり切って楽しんでいる。想像力を逞しくして。それを読みながら僕は僕で、自分の大学時代にタイムスリップして、懐かしい思い出に浸る。「文学部の長いスロープを校舎の方に上りながら」なんて一節に出会…

別嬪ではないが

日本文学100年の名作 第6巻 1964-1973 ベトナム姐ちゃん (新潮文庫) 新潮社 Amazon 木山捷平の「軽石」は、ほんわかと心が温まるいい話。主人公の正介のちょっと変人寄りの人柄も好ましいが、「もともと別嬪でないのは承知でもらった」というその妻のおおら…

本が本を呼ぶ

太宰治の辞書 作者:北村 薫 新潮社 Amazon 題名に惹かれて読み始めたが、どんどん引き込まれていった。こんな面白い本があったとは、知らなかった。 小説は書かれることによっては完成しない。読まれることによって完成するのだ。ひとつの小説は、決して《ひ…

山の名文家

街と山のあいだ 作者:若菜晃子 アノニマ・スタジオ Amazon 山の雑誌の編集にも携わったという著者による、山の随筆集。山を語る名文家と言えば、まず深田久弥、続いて串田孫一、辻まこと、畦地梅太郎などを思い浮かべるが、この若菜晃子もその中に加えよう。…

自分を映し出す鏡

日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら (新潮文庫) 新潮社 Amazon 最後の作品、というせいもあるが、北村薫の「ものがたり」が一番印象に残った。そして、疑問が残った。疑問は自分の不注意のせいかもしれない。何度も読み返したが、やはり自分の…

最後の一行に鳥肌が立つ

日本文学100年の名作 第7巻 1974-1983 公然の秘密 (新潮文庫) 新潮社 Amazon 『日本文学100年の名作 第7巻』(新潮文庫)を読んだ。目利きによる厳選だけに、収録作品はどれも質が高くて、満足度も高い。初めて読む作家も数人いるが(神吉拓郎、李恢成、色…

焚火とアイロン

日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景 (新潮文庫) 発売日: 2015/04/30 メディア: 文庫 村上春樹の「アイロンのある風景」は、読み手をあっと言わせる展開もなく、泣かせる場面もなく、収録作品の中では一番地味な作品、印象に残りにくい…

第10巻から読み始める。

学校の図書室で借りて、『日本文学100年の名作 第10巻』(新潮文庫)を読んだ。 日本文学100年の名作 第10巻 2004-2013 バタフライ和文タイプ事務所 (新潮文庫) 発売日: 2015/05/28 メディア: 文庫 伊集院静、木内昇、道尾秀介、桜木紫乃、高樹のぶ子、山白…

小説について書かれたものを読むことの楽しさ

漱石の『こころ』と言えば、高校の現代文の教科書中の定番であり、名作中の名作のように崇め奉られているのだが、坂口安吾の手にかかってはひとたまりもない。 私はこの春、漱石の長編をひととおり読んだ。…私は漱石の作品が全然肉体を生活していないので驚…

夢見る男

久々に読む「百年文庫」。 (042)夢 (百年文庫) 作者:ポルガー,三島由紀夫,ヘミングウェイ 発売日: 2010/10/12 メディア: 文庫 ポルガーは初めて読む作家。三島由紀夫の「雨のなかの噴水」は、以前、他のアンソロジーで読んだのでこれが2度目。ヘミングウェ…

幻の名作?

井伏鱒二『仕事部屋』(講談社文芸文庫)は、井伏鱒二初期(昭和初期)の作品群を収めたもの。この中のほとんどの作品が筑摩の旧「全集」にも「自選全集」にも収められていなかった(つまり、井伏自身によってはじかれていた)ため、この文庫は読みたくても…

国木田独歩の代表作は?

大学入試にしばしば出題される、「国木田独歩の代表作を次の選択肢の中から選びなさい」、という問題の答えがほぼ例外なく「武蔵野」である、というのは、不思議と言えば不思議。 短編小説作家、独歩の本領が発揮された作品を選ぶとしたら、「酒中日記」か、…

人間の真実を描く掌編小説

大西巨人『日本掌編小説秀作選』(上・下) 日本文学の精華を集大成したという趣の二冊だが、面白い作品を集めてみたらこうなりましたではなく、それらの作品群を貫いて一本の筋を通そうという編者の意図が強く感じられる。つまりは大西巨人という人間の個性…

読んだ記録、読んだ記憶

このブログでは、本を読み終えたらその覚書として(かつて書いていた読書ノートの代わりとして)その本についての駄文をしたためる、ということを続けて来た。ごく少数ながらアクセスしてくれる人もいるし、何よりも自分のための読書記録として、やめるわけ…

佐藤正午は一気に読め

岩波文庫的 月の満ち欠け 作者:正午, 佐藤 発売日: 2019/10/05 メディア: 文庫 気になっていた佐藤正午の『月の満ち欠け』を読みました。 構成的には非常に凝った小説で、読んでいると頭がこんがらがってきますので、これから読む人は以下のことを頭に置きな…

中島敦展

神奈川近代文学館で開催中の「中島敦展―魅せられた旅人の短い生涯」を観て来た。 「文芸ストレイドッグス」なるものの影響か、いつもより若い女の子が多いような気がした。会場に用意してあるワークシートに記入して売店で見せると、その文芸ストレイドッグ…

太宰治と三島

何年か前、文学散歩の仲間と三島の街を歩いたことがある。桜川という川に沿って文学碑が立ち並んでいるところがあって、その時の写真を見ると、井上靖、大岡信、芭蕉、子規などの作品を彫った句碑、詩碑が多数立っていることがわかるが、その中に太宰治のは…

島尾文学と夢

島尾敏雄の『過ぎゆく時の中で』というエッセイ集が、本棚の中で眠っていた。昭和58年発行。たぶん教材研究のために買ったのだと思う。「横浜生まれ」という文章に印が付いている。「横浜出身の作家だよ~」とか言って、生徒の興味を惹こうとたくらんだのだ…

夢の手法

島尾敏雄の『夢の中での日常』を読んだ。買ったのは学生時代か、勤め始めてすぐの頃か。すっかり日焼けして、ページの奥の方まで色が変わってしまっている。最近は、そんな本を本棚から引っ張り出してきて読むことが多い。読むべき本は、新刊書店の棚よりも…

掘り出し物

俳人、石川桂郎の名前は知っていた。気に入った句を書き溜めてあるファイルの中に、 釣堀がこんなところに雨の旗 が見つかった。平井照敏編の『現代の俳句』の中にも取り上げられている俳人だ。この人が小説家として優れた作品を残していることは、『名短編…