人間の真実を描く掌編小説

大西巨人『日本掌編小説秀作選』(上・下) 日本文学の精華を集大成したという趣の二冊だが、面白い作品を集めてみたらこうなりましたではなく、それらの作品群を貫いて一本の筋を通そうという編者の意図が強く感じられる。つまりは大西巨人という人間の個性…

詩人、蕪村

萩原朔太郎の「郷愁の詩人 与謝蕪村」を読んだ。これは詩人による俳句論としてなかなか面白い。また、朔太郎が自らの詩において何を追い求めたのかを探る手がかりともなる。 今や蕪村の俳句は、改めてまた鑑賞され、新しくまた再批判されねばならない。僕の…

読んだ記録、読んだ記憶

このブログでは、本を読み終えたらその覚書として(かつて書いていた読書ノートの代わりとして)その本についての駄文をしたためる、ということを続けて来た。ごく少数ながらアクセスしてくれる人もいるし、何よりも自分のための読書記録として、やめるわけ…

万葉集love💛な入門書

永井路子著、『今日に生きる万葉』は、『万葉集』愛に満ちた著者による、『万葉集』入門。 万葉の時代の人たちが、読む前よりも身近に感じられるようになる一方で、万葉の時代の男女のあり方(結婚観、生活様式)が、現代とは決定的に異なるものであったこと…

作者の意図と鑑賞の自由

国語科準備室の一番奥の本棚は、その前に雑多な荷物が山積みになっていたために、近づくことのできない聖域になっていたのですが、その雑物の主がこの3月末で転勤し、すっすかり片付いたのを機に、その本棚の扉を開けてみたら、何とそこには学燈社の『国文…

「自粛」の時代

昨日取り上げた飯田龍太の随筆集『紺の記憶』には、井伏鱒二との思い出を語り、その作品に触れた文章が何編か収められています。「余韻豊潤」もその中の一つです。僕はそこで取り上げられている「釣宿」という随筆に強く興味をそそられ、久々に井伏の文章を…

名句とは、秀句とは

しばらく読みかけのままになっていた飯田龍太の随想集『紺の記憶』を久々に開いてみたら、面白くなって最後まで一気に読んでしまいました。これは、もう15年くらい前、職場の先輩からいただいた本。特に俳句の愛好家でもない生物の教師が、どういうきっかけ…

情動の共有としてのコミュニケーション

大井玄の『「痴呆老人」は何を見ているか』は、読み応えのある、良書だ。もちろん、高校生にもおススメ。 「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書) 作者:大井 玄 発売日: 2008/01/01 メディア: 新書 今年度、授業で使う現代文の問題集に、この本の第三章「…

書店巡りの旅

旅する本の雑誌 発売日: 2018/07/25 メディア: 単行本(ソフトカバー) 旅先でたまたま雰囲気の良さげな本屋を見つけて、ぶらりと立ち寄る、という経験はこれまでに何度かあるが、最初から本屋を目的とした旅の計画を立てたことはなかった。 『旅する本の雑…

佐藤正午は一気に読め

岩波文庫的 月の満ち欠け 作者:正午, 佐藤 発売日: 2019/10/05 メディア: 文庫 気になっていた佐藤正午の『月の満ち欠け』を読みました。 構成的には非常に凝った小説で、読んでいると頭がこんがらがってきますので、これから読む人は以下のことを頭に置きな…

脳生理学者の芭蕉論

「奥の細道」の知恵 (講談社文庫) 作者:品川 嘉也 メディア: 文庫 おそらく古本屋の店先の100円均一のワゴンの中にあるのを見つけて買ったのだろう、ずいぶん前から本棚にあって、そのままにしていたのを読み始めてみたら、これが意外と面白い。 筆者が言い…

30年前に出会っていれば…

アクティブ・ラーニングはどのような時代の流れの中で提起されるに至ったか、今アクティブ・ラーニングを行うことの意義はどこにあるのか、アクティブ・ラーニングには具体的にどのような技法があるのか、それをどのように導入していけば良いのか… アクティ…

マークシート式問題批判

論理的に考え、書く力 (光文社新書) 作者:芳沢 光雄 発売日: 2013/11/15 メディア: 新書 教育施策については慌ただしく動いており、その点では既に消費期限切れの本であるが、まあ、それはともかく、マークシート式問題を批判した次のような部分には共鳴でき…

年輪の温もり

冨田民人の詩集『中有(そら)の樹』を読んだ。 この詩集の読者は、まず自分が過去に連れていかれることを感じるだろう。作者が作品中に登場させるものたちの多くは、長い時間の堆積物としてそこにある、あるいは読者を過去へと誘うものとして存在する。 「…

見える色、見えない色

伊勢佐木町の古書店、馬燈書房で佐藤文香の句集『海藻標本』を見つけて購入。冒頭の、 少女みな紺の水着を絞りけり はいろいろと取り上げられていて知っていたし、生徒に紹介もした。(9年ほど前の記事にこんなことを書いてます。http://mf-fagott.hatenabl…

関根正二の自画像

鎌倉の「関根正二展」を観に行ったのは2月13日、前期展示の期間中だった。展示替えした後にもう一度行きたいと思っていたのに、休館になってしまった。出品リストを見ると、前期後期で随分たくさんの作品が入れ替わっている。そうと知ると、今回の新型コロナ…

教えない先生

もっと若い時に読んでおくべきだったんだよな、と思いつつ… 教師 大村はま96歳の仕事 作者:大村 はま 発売日: 2003/05/29 メディア: 単行本 戦後の大きな失敗は、先生たちが教えることを遠慮するようになったことだと思います。教えるということは「詰め込み…

振り子は先に進まない?

今度は、こんな本、読んだよ。 小針誠『アクティブラーニング―学校教育の理想と現実』(講談社現代新書) アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書) 作者:小針 誠 発売日: 2018/03/15 メディア: 新書 内容を大まかにまとめれば、前半は広…

「主語がいらない日本語」を肯定するか、否定するか

日本語は亡びない (ちくま新書) 作者:金谷 武洋 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2010/03/10 メディア: 新書 このブログの中で、僕も「主語」という言葉を何度か使ってはいる。しかし、英文法の「SVO」のような考え方を移入した現在の学校文法(橋本文…

「書く」教育の大切さ

鳥飼玖美子、苅谷夏子、苅谷剛彦『ことばの教育を問いなおす―国語・英語の現在と未来』(ちくま新書)を読んだ。 「話す」「聞く」、すなわち口頭でのコミュニケーションの力を延ばすことを重視しようとしている昨今の風潮の中にあって、「書く」ことの教育…

絵の授業を俳句の授業のつもりで聴く

『千住博の美術の授業 絵を描く悦び』(光文社新書)を読んだ。 千住博の美術の授業 絵を描く悦び (光文社新書) 作者:千住 博 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/06/27 メディア: Kindle版 絵を描く人への教えは、あらゆる表現活動に当てはまるに違いな…

「奥の細道」は若者だけが難しいと感じるのか

堀切実「『おくのほそ道』をよむ」(岩波ブックレット)を読んだ。 『おくのほそ道』をよむ (岩波ブックレット―クラシックスと現代) 作者:堀切 実 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1993/02/22 メディア: 単行本 大学の国文科3年生に対するアンケート調査…

夏井いつきを読む

仕事帰り、図書館に寄って、夏井いつき『句集 伊月集 龍』を読んだ。 遺失物係の窓のヒヤシンス しつかりと握つたはずの初蛍 たむろして金魚のよしあしを論ず そこにまだありをととひの鵙の贄 台本になく咳き込んでをりにけり 善玉のはうの狐火つれてくる 考…

現代人が負わされた問い

新・建築入門―思想と歴史 (ちくま新書) 作者:隈 研吾 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 1994/11 メディア: 新書 大学の入学試験の過去問をいろいろ解いてみるという授業の中で、隈研吾の『新・建築入門―思想と歴史』を出典とする問題と出会った。それは、…

やるしかない状況に自分を追い込む

『日曜俳句入門』(吉竹純著、岩波新書)は、俳句の作り方ではなくて、新聞俳壇などへの投句を楽しむコツを教えてくれる本。 日曜俳句入門 (岩波新書) 作者:吉竹 純 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/10/31 メディア: 新書 僕は新聞の俳句欄に投句す…

記憶か思考か

橋爪大三郎の『正しい本の読み方』(講談社現代新書)を読んだ。 正しい本の読み方 (講談社現代新書) 作者:橋爪 大三郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/09/20 メディア: 新書 読んだことは、忘れてよい。本のなかみは、忘れていいことが、大部分です…

予備校の先生はどういう授業をしているのか、拝見。

これもまた、授業のために購入。 古文の勉強法をはじめからていねいに (東進ブックス 大学受験 TOSHIN COMICS) 作者: 出版社/メーカー: ナガセ 発売日: 2018/11/27 メディア: 単行本 プロの技を見せてもらって、そこから謙虚に学びたいと思ったのだが、とて…

これで『平家』を読んだ気になってはいけないが…

平家物語 マンガとあらすじでよくわかる (じっぴコンパクト新書) 作者: 出版社/メーカー: 実業之日本社 発売日: 2011/11/10 メディア: 新書 授業の準備のために購入。 長大な物語が要領よく簡潔にまとめられていて、ありがたい。『平家物語』の全体像を見渡…

「巣作り」としての文学

文学 (ヒューマニティーズ) 作者:小野 正嗣 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2012/04/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) 小野正嗣の『文学』は比喩に満ちている。 文学という営為は言葉によって巣を作るという行為に似ていると書いた。しかし、くり返…

努力と忍耐

授業の準備のために、図書室の「生物学」の棚を物色しているうちに、こんな本を見つけて読みはじめてしまった。 今西錦司 生物レベルでの思考 (STANDARD BOOKS) 作者:今西 錦司 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2019/02/15 メディア: 単行本 私をつかまえて…