世界は、いま

今週から授業で取りあげようとしている現代文の教材「世界はいま―多文化世界の構築」は青木保の『多文化世界』(岩波新書)の序章からの抜粋だ。 多文化世界 (岩波新書) 作者:青木 保 発売日: 2003/06/21 メディア: 新書 この著作が世に出たのは2003年。それ…

今年登った山と、読んだ山の本

今年登った山 1月11日 子の権現からスルギ尾根(奥武蔵) 2月8日 宮ケ瀬湖南山歩道 4月5日 檜岳、雨山(丹沢) 5月31日 加入道山(丹沢) 8月8日 飯盛山 8月9日 編笠山、西岳 9月21日 茅が岳 11月1日 愛鷹山(越前岳) 12月26日 日…

小説について書かれたものを読むことの楽しさ

漱石の『こころ』と言えば、高校の現代文の教科書中の定番であり、名作中の名作のように崇め奉られているのだが、坂口安吾の手にかかってはひとたまりもない。 私はこの春、漱石の長編をひととおり読んだ。…私は漱石の作品が全然肉体を生活していないので驚…

草野早苗句集『ぱららん』

またまた魅力的な句集をいただいた。冒頭の一句に戸惑う年の暮れ。その句、 穴すべてブラシで磨く春の朝 何の「穴」か、なぞ。「穴すべて」とあるから、穴はたくさんある。その穴の一つ一つにブラシを差し込んで丁寧に磨く。久しぶりにきれいに磨かれた、穴…

古本をつまみに飲む

ビブリオ漫画文庫 (ちくま文庫 や 50-1) 発売日: 2017/08/07 メディア: 文庫 僕には、ここに収録された作品のすべてが秀作であるとは感じられない。しかし、「古本屋台」はなかなか魅力的(原作:久住昌之、画:久住卓也)。古本満載の屋台で飲む焼酎のお湯…

夢見る男

久々に読む「百年文庫」。 (042)夢 (百年文庫) 作者:ポルガー,三島由紀夫,ヘミングウェイ 発売日: 2010/10/12 メディア: 文庫 ポルガーは初めて読む作家。三島由紀夫の「雨のなかの噴水」は、以前、他のアンソロジーで読んだのでこれが2度目。ヘミングウェ…

感応は官能

横尾忠則の『名画感応術』。ゴッホ、マネ、モディリアーニ、などの名画を、横尾忠則流に鑑賞、といっても、期待していたほど刺激的なことは書いてないが、取り上げた名画はどれもみな魅力的。 名画感応術―神の贈り物を歓ぶ (光文社文庫) 作者:横尾 忠則 発売…

真意を探る

こういう本があるのを知って、取り寄せて読んでみたのだが、『人生論ノート』の難しいところはやはり難しいことに変わりはない。ただ、この著作の難しい言い回しの裏には、発表当時の時局への遠回しな批判が込められているかもしれない、という視点を持って…

読書の味覚

三木清は、「読書遍歴」(『読書と人生』所収)の中で、「昔深く影響されたもので、その思い出を完全にしておくために、後に再び読んでみることを欲しないような本があるものである」と言っている。三木清が「深く影響された」本というのは徳富蘆花の『自然…

人生の残り時間

最近は人生の残り時間というものを意識して、新しい本を買って「積ん読」の山を無駄に高くすることは極力控えるよう心掛けている。それよりも、いつか読むだろうと思っていた本で既にいっぱいになっている本棚から、日焼けしたりシミだらけになったりした古…

背泳ぎの空

中谷豊句集『火焔樹』を読んで印象に残った句の一つが、 背泳ぎの空に未来を見し日かな だ。この句を読んで、僕はすぐに石田響子の 背泳ぎの空のだんだんおそろしく を思い出した。背泳ぎをしながら見た空におそろしさを感じることと、未来を見ることの間に…

旅の窓

名作紀行文、『深夜特急』が生まれるまでの舞台裏と、その後日談を語り、旅の本質に迫る、興味深いエッセイ集。 ひとりバスに乗り、窓から外の風景を見ていると、さまざまな思いが脈絡なく浮かんでは消えていく。そのひとつの思いに深く入っていくと、やがて…

「創造」としての「鑑賞」

現代秀句 作者:正木 ゆう子 発売日: 2020/09/28 メディア: 単行本(ソフトカバー) 帯に「鑑賞、すなわち創造」とあるが、文学作品の鑑賞、とりわけ俳句の場合は読者に「創造」力が求められる。たとえば、橋閒石の句、 柩出るとき風景に橋かかる の場合。筆…

ロンドン、ロンドン

今日は、ロンドンの日。 上野の西洋美術館で開催中の「ロンドン・ナショナルギャラリー展」を観てきた。 会期終了のぎりぎりになって、やっぱり観ておきたくなって、日時指定のチケットの空き状況をネットで調べたら、昼間の枠はすべて完売、夜の時間帯にか…

人生観を変える旅

14年ぶりに、沢木耕太郎の『深夜特急』の続き(2巻~)を読み始めた。第1巻をあんなに面白がって読んだのに、 (https://mf-fagott.hatenablog.com/entry/20060517) なぜかずいぶん間隔があいてしまった。 深夜特急2―マレー半島・シンガポール―(新潮文庫…

ピンチをチャンスに

村上陽一郎編『コロナ後の世界を生きる―私たちの提言』(岩波新書)を読んだ。 コロナ後の世界を生きる――私たちの提言 (岩波新書 (新赤版 1840)) 作者:村上 陽一郎 発売日: 2020/07/22 メディア: 新書 コロナ禍を脱し、早く平常の生活が戻ってほしいと思うの…

商品としての絵画

池田満寿夫『美の値段』を読んだ。タイトル通りの内容。値段がつかない美術品はない。もちろん、美術作品の値段はその芸術的な評価と単純に比例して高かったり低かったりするわけではない。そのからくりが興味深い。 絵画にとって、画商の果たす役割の極めて…

絵画は自分の記憶を引き起こす

窪島誠一郎の『絵をみるヒント』を読んだ。 絵をみるヒント(増補新版) 作者:窪島 誠一郎 発売日: 2014/04/18 メディア: 単行本 「水商売出身の美術館屋」と自称する著者だからこそ書ける、絵画と美術館への愛。 群馬県桐生市の大川美術館と長野県東御市の梅…

幻の名作?

井伏鱒二『仕事部屋』(講談社文芸文庫)は、井伏鱒二初期(昭和初期)の作品群を収めたもの。この中のほとんどの作品が筑摩の旧「全集」にも「自選全集」にも収められていなかった(つまり、井伏自身によってはじかれていた)ため、この文庫は読みたくても…

文章家、つげ義春

つげ義春の文章が魅力的であることは以前書いた(→もっと読みたい、つげ義春の文章 )が、今回エッセイ集『苦節十年記/旅籠の思い出』(ちくま文庫、つげ義春コレクション)を読んで、そのことを再認識した。読み応えがある文章が多くある中でも、特に良か…

嘘発見器

清水町先生 (ちくま文庫) 作者:小沼 丹 発売日: 1997/06/01 メディア: 文庫 小沼丹が終生の師と慕った清水町先生、すなわち井伏鱒二の、人と作品について愛情を込めて綴った随筆集。井伏鱒二の作品理解への最良の手引きであると同時に、小沼丹の井伏譲りの軽…

池上先生から仏教を学ぶ

久々に池上彰先生の生徒になった。 今回の講義のテーマは、仏教。池上先生の守備範囲の広さには驚かされる。池上先生の著書を読み尽くせば、世の中の大切なことは一通り勉強できるのではないかと思う。 池上彰と考える、仏教って何ですか? 作者:池上彰 発売…

仏教の勉強をしようと思って最初に読む本がみうらじゅんの『マイ仏教』でも良いと思う。

マイ仏教 (新潮新書) 作者:みうらじゅん 発売日: 2012/07/01 メディア: Kindle版 「仏像を怪獣の延長として受け取り、両者に共通する異形の佇まいにグッときた」という小学生が、一人でお寺に足を運び、瓦を集め、御朱印をいただく。仏像の写真を撮り溜めて…

国木田独歩の代表作は?

大学入試にしばしば出題される、「国木田独歩の代表作を次の選択肢の中から選びなさい」、という問題の答えがほぼ例外なく「武蔵野」である、というのは、不思議と言えば不思議。 短編小説作家、独歩の本領が発揮された作品を選ぶとしたら、「酒中日記」か、…

人間の真実を描く掌編小説

大西巨人『日本掌編小説秀作選』(上・下) 日本文学の精華を集大成したという趣の二冊だが、面白い作品を集めてみたらこうなりましたではなく、それらの作品群を貫いて一本の筋を通そうという編者の意図が強く感じられる。つまりは大西巨人という人間の個性…

詩人、蕪村

萩原朔太郎の「郷愁の詩人 与謝蕪村」を読んだ。これは詩人による俳句論としてなかなか面白い。また、朔太郎が自らの詩において何を追い求めたのかを探る手がかりともなる。 今や蕪村の俳句は、改めてまた鑑賞され、新しくまた再批判されねばならない。僕の…

読んだ記録、読んだ記憶

このブログでは、本を読み終えたらその覚書として(かつて書いていた読書ノートの代わりとして)その本についての駄文をしたためる、ということを続けて来た。ごく少数ながらアクセスしてくれる人もいるし、何よりも自分のための読書記録として、やめるわけ…

万葉集love💛な入門書

永井路子著、『今日に生きる万葉』は、『万葉集』愛に満ちた著者による、『万葉集』入門。 万葉の時代の人たちが、読む前よりも身近に感じられるようになる一方で、万葉の時代の男女のあり方(結婚観、生活様式)が、現代とは決定的に異なるものであったこと…

作者の意図と鑑賞の自由

国語科準備室の一番奥の本棚は、その前に雑多な荷物が山積みになっていたために、近づくことのできない聖域になっていたのですが、その雑物の主がこの3月末で転勤し、すっすかり片付いたのを機に、その本棚の扉を開けてみたら、何とそこには学燈社の『国文…

「自粛」の時代

昨日取り上げた飯田龍太の随筆集『紺の記憶』には、井伏鱒二との思い出を語り、その作品に触れた文章が何編か収められています。「余韻豊潤」もその中の一つです。僕はそこで取り上げられている「釣宿」という随筆に強く興味をそそられ、久々に井伏の文章を…