羽化する前に

三分の一ほど読み進んだところで、

思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ

という歌に出会った。

この歌集に書きつけられた言葉の多くは、三十一文字という短歌の形をしてはいるが、まだ成虫にはなり切っていない蛹のようなものと言えるのかもしれない。たとえば蝶。可憐なモンシロチョウや華麗な揚羽蝶よりも、羽化する前の幼虫や蛹に、筆者の心は寄り添おうとしているようだ。憧れであったり、不安であったり、野心であったり。そんな混沌とした感情をいだいていたことを、「成虫」となって羽ばたく蝶は覚えているだろうか。
「幼虫」であるうちに、書きつけておかなければならない言葉がある。感受性という翼を広げて、滑走路を駆け抜けるときにしか生まれてこない言葉があるのだ。