- 作者: 磯崎憲一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/07/24
- メディア: 単行本
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人格と人格の間に、過去と現在の間に、そして夢と現実の間に、それらを区切る境界線は厳然と存在するのだということを前提に、僕たちの生活は営まれている。しかしその境界線を不確かなものと感じ始めたとしたら、現実はこの小説のように不可解な様相を帯びてくるのではないか。磯粼憲一郎は作品の中で、意図的に境界線のあいまいな世界をつくり出し、僕らの現実に揺さぶりをかけようとしているように読める。最後の場面の、
不思議なことに彼も妻も、ふたつの顔はむかしと何ら変わっておらず、そのうえ鏡に写したように似ているのだった。
というところに、著者の意図が少々露骨に現れてしまっているように感じたが、どうなのだろう。もう一度読めば、作品理解が深まることは間違いないが、それより僕はこの著者の別の作品をぜひ読んでみたいと思う。それは、この作家の意図を別の作品に探りたいということでもあるが、それ以上に、この人の独特の文体にはまってしまったということなのだ。