電車の中で始まる「家飲み」

家飲みを極める (NHK出版新書)

家飲みを極める (NHK出版新書)

 

 『家飲みを極める』という書名を見れば、誰でもこれはコロナ状況下に合わせて企画された本に違いない、と早とちりしそうだが(僕はそうだった)、第一刷発行は2016年5月、コロナとも「ステイ・ホーム」とも無関係なのだった。

「プロローグ」によると、「日本に家飲みブームが到来したのは2009年前後」と言われ、その一番の理由は「外飲みのために使えるお金が減ったため」というのだから侘しい話だが、筆者は家飲みの魅力を「料理する工程そのものを『つまみ』として堪能できる」という点に見出し、積極的に家飲みを楽しもうとする。

枝豆のゆで方やジャガイモの蒸かし方、玉葱の辛みの抜き方について、うまく行ったりいかなかったりという実践に基づいてあれこれと蘊蓄を傾ける、その語り口は少々理屈っぽくて堅苦しいが、不思議と読者を引き付けるのは、筆者自身がその工程を楽しんでいるからか。仕事帰りの電車の中で読み始めれば、その時から家飲みは既に始まっている、そんな気分になれる本。