シエスタ

暖かくなったせいか、計画停電が見送られることが多くてありがたいけれど、エアコンの欲しい暑い季節になったら大変なことになるだろう。職場でそんな話をしていたら、パラグアイで生活していたことのある同僚がこんなことを言っていた。
「日本も真夏の昼間はクーラーを切って、シエスタにしてしまえばいいんじゃないの。」
シエスタ…」聞いたことのある言葉だなあと思ったら、すぐ思い出した。先日箭内忍さんから送って頂いた句集の題名がシエスタだった。「シエスタ」とはスペイン語で「昼寝」の意味。同僚の話によれば、パラグアイでは昼は自宅に戻って昼食とその後の休憩の時間をたっぷりととって、日が傾くころからまた仕事を始めるらしい。そういう習慣のある国は他にもたくさんあるようだ。
今回の大惨事をきっかけに、日本も生活習慣を見直さざるを得なくなっていくだろう。快適さや便利さや物の豊かさを求めてガツガツ働く時代はもう終わりにすべきじゃないか、電気が足りなければそれに合わせた生活に切り替えればいいんじゃないか、店内の照明は今くらい暗めでちょうどいい、営業時間も短くなっていい、そんな声をたくさん耳にする。僕もそう思う。
潤沢な電力を得るために、日本はあまりにも危険な荷物を背負い込んでしまっていた。この先、原発を増設することは困難だろう。かと言って、それに代わるクリーンエネルギーの実用化もまだまだ先の話だろう。僕たちは自らの生活を足元から見直さざるを得なくなったのだ。
真夏の電力のピークを下げるには、「シエスタ」のような発想も必要だと思う。


句集『シエスタ』より…


出されたる名刺の上へ春の雪
馬来ては布袋葵を鼻で突く
改札で交差浮き輪の赤と青
運動会果つ蛇口みな空向きて
対岸をランナーがゆくさくらかな
夕焼けの中で物喰ふ華僑五人
桃送りますと間違ひファックスに
餅の焦げ削ぐや流星群来たる
納め雛息できぬほど包まれて
地震の夜一尾遺りし金魚の朱