またまた魅力的な句集をいただいた。冒頭の一句に戸惑う年の暮れ。その句、
穴すべてブラシで磨く春の朝
何の「穴」か、なぞ。「穴すべて」とあるから、穴はたくさんある。その穴の一つ一つにブラシを差し込んで丁寧に磨く。久しぶりにきれいに磨かれた、穴、穴、穴。こんなふうに、春の一日が始まるのも悪くない。
山羊の仔にガウディと名付け山下る
可憐な山羊の仔に、未完の大作、サグラダファミリアで知られる建築家の名前を付けてしまう、そのミスマッチングが可笑しい。別れるとき、もう一度「ガウディ」と呼んでみる。山の上での生活が名残惜しい。
梅雨曇り黄色のタクシーを選びけり
いろいろな色のタクシーが客待ちする中から、黄色のそのタクシーに決めたのか。それとも今日は黄色のタクシーと決めていて、待望のそれが走ってきたので手を挙げたのか。いずれにしても、今日はどの色の靴を履いて行こうかしら、という感覚でタクシー選びを楽しんでいる。さて、黄色のタクシーに乗って運ばれて行く先はどこなのか。そもそも、行く先は決まっているのか。いや、黄色のタクシーに乗ること自体が目的なのではないのか。
手を洗ひ髪で拭く癖花曇
春夕焼キリンが角で交信す
ぱららんとトランペット鳴り梅雨明くる
献血の基準に足らず寒菫
花見シートの下のでこぼこ埋立地
日ノ出町の交番前でいつも咳
「あとがき」に「句は作者の性格のみならず、人生を表すと信じている」とある。魅力的な句から、作者は素敵な人生を歩んでいる方に違いないと想像する。