早稲の花

未来図は直線多し早稲の花      鍵和田秞子

未来の都市生活においては、何よりも効率やスピードが優先される。そのため街のつくりは直線的であることが望ましい。建物や道路の設計図には定規で引いたような直線が多用される。それは硬質で透明感のある一種の美しさを醸し出してはいるが、どこか人の温もりが欠けている…

僕はこれまで、この句をこんな風に読んできた。しかし、『鑑賞 日本の名句』の次の鑑賞文を読むと、自分の読みの浅さに気づかされる。

未来の持つ可能性は、それば未知で不確かだからこそ限りなく大きく、直線は、迷いなく一点に向かってどこまでも伸びる。

僕の読み方には、「稲の花」という季語への目配りが欠けていた。「稲の花」には、収穫への期待と不安、豊作への願いが込められている。まして「早稲」となれば、刈入れの時期はすぐにやってくる。実り豊かな未来がすぐそこにあるというときめきを読み取るべきだろう。

第一句集『未来図』発行は昭和51年、この句の詠まれた時代には、自分たちが明るい未来にまっすぐ近づいていることを信じることができたのだ。