美術と言葉

山梨俊夫美術の愉しみ方』(中公文庫)

この本には、美術と言葉の関係に触れた記述が多いと感じた。その部分を簡潔にまとめてみた。

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たくさんの作品を見ることが、美術を深く愉しむことにつながるが、さらにその先の扉を開けてより深い愉しみを味わうためには、「言葉」の助けが必要になる。
感じたことを整理し、他人に伝えるのは自分の言葉だ。それは作家自身の言葉や、批評家・美術史家の言葉に触発されて、より豊かになる。作家は様々な語り口で美術を言葉にする。その言葉を通してより良い理解が得られる。読むこと自体も美術の愉しみの一つだ。
作品を比べること(類似と相違を見ること)は、作品を見る眼を鍛える。それぞれの絵から受けた異なる印象を輪郭づけるのは言葉だが、その言葉は作品から受ける感じを限定することもある。作品自体は多義的で豊かなものだが、作品の印象を言葉に置き換えるのは、作品を貧しくする危険もあるのだ。

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著者は、神奈川県立近代美術館に勤めていた経験から、企画展での作品展示にまつわる学芸員たちの苦労話や、学芸員室での裏話も披歴する。こんな本を読むことも、美術の愉しみの一つに数えられよう。