源氏物語は不道徳?

NHK大河ドラマ放映に合わせたように、『源氏物語』関係の本が書店の店頭に目立つ。この『源氏物語入門』(高木和子著)もその中の一冊。

『入門』といっても、これから初めて『源氏』を読もうとしている人より、既にある程度読んだけれども、どこが面白いのかわからずに途中で挫折している人、世界的文学と評価されているのに、作品のすばらしさがわからないのは悔しいと思っている人、つまり僕のような人間が読むのにふさわしい本かもしれない。

筆者は「はじめに」で、「源氏物語』に潜伏しているさまざまな脈絡」に気づき、『源氏』を楽しんで読むために、「なぜ」「どうして」という問いかけを多くしたと言っている。目次を見ると、

源氏物語って不道徳な話なの?」

「似た人を好きになってもいいの?」

「嫉妬に狂う女は嫌われる?」

のような見出しが並ぶ。もちろん、著者はいずれの問いかけにも「YES」「NO」で明確な答えを提示しているわけではない。これらの問いに読者として自分なりに答えを見出そうとすることが、作品世界に分け入ろうとする原動力になればいいのである。

ところで、「源氏物語って不道徳な話なの?」の章の終りの方で、「ものの心」がわかる人、つまり「一般的には不埒であっても、優美で風流な事柄を評価する価値観」を持てる人が『源氏物語』の読者になれるのだ、という意味のことを述べている。「源氏」は不道徳な話なのだが、それはあくまで「虚構の世界の出来事」なのであり、その不道徳な話を「〈読者〉という安全な場所に甘んじながら、高みの見物ができる」ところが、いつの時代の読者にとっても、『源氏』を読む喜びなのだ、と。

そもそも虚構としての「物語」を読むという行為には、そういう側面があるだろう。善人が主役の話でないと読みたくないと言っていては、文学に近づくことはできない。

 

光源氏については、以前、こんなことも書いていた。

光源氏の「耐える能力」 - 僕が線を引いて読んだ所 (hatenablog.com)