お笑いの感覚、俳句の感覚

芸人と俳人

芸人と俳人

 芸人である又吉直樹を相手に、俳人である堀本裕樹がマンツーマンで俳句の講義をすすめる。だから、本の題名『芸人と俳人は、『芸人(=又吉直樹)と俳人(=堀本裕樹)』という意味。お笑い芸人と俳人という、ちょっと珍しい取り合わせがこの本のミソで、互いが刺激し合い、吸収し合って俳句への理解を深めていく…というのが一つの読み方。
 もう一つの読み方。
 又吉直樹という一人の人間の中で、芸人である部分と俳人である部分がどんなふうに作用し合って、独自の芸風を築いていくのか。だから、本の題名『芸人と俳人』の意味は、『(又吉直樹の中の)芸人と俳人』。
 もともと、お笑いと俳句の間には、太い通路がある。又吉直樹『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』は、自由律俳句であり、同時にお笑いのネタでもあった。
 堀本師匠について、有季定型という伝統的な「型」を学び、切れ字や比喩法などの修辞法を学んだ又吉直樹が、お笑い芸人兼俳人(兼小説家)として、どんな姿を見せてくれるのか、それはこれからの楽しみだ。
 本の最後のほうに、又吉直樹のこんな発言がある。

僕、普段、空を見たら、この雲がもっと変な形だったら笑いのエピソードになるなとか考えているんです。でも、鎌倉の吟行で空を見たときは、季語や自分の中に湧き上がってくる「言いたいこと」を探していました。お笑いのほうの感覚じゃなくて、俳句のほうの感覚で歩いてましたね。

 「お笑いのほうの感覚」と「俳句のほうの感覚」を切り替えるのではなく、両方の感覚が自然に融合したところに又吉直樹の新しい芸が始まるのかも知れない、と僕は考えている。