職分として…


蜻蛉
蟷螂
油蝉
黄金虫

…これ、夏休みが開けてから今日まで、授業中に教室の窓から外に逃がしてやった虫たちです。
今勤めている学校は周りに樹木が多いので、窓を開けっ放しの教室にはいろいろな虫が迷い込んで来るんですね。虫が入ってくると、生徒達は「キャー、ヤダー、先生何とかしてー!!」なんてうるさいモンですから、そいつらを(生徒じゃなくて虫の方ね)をつまんで外にほっぽり出さないと授業を再開できないんですよ。「虫をつまみ出すこと」というのも教師の大切な仕事の一つなのであります。
それで、こんな俳句を見つけたときは嬉しくなってしまいました。


職分として蟷螂をつまみ出す   今井聖(『バーベルに月乗せて』所収)


僕が三階の教室の窓から外に放り投げた蟷螂(カマキリ)は、大きな翅を広げて屋上のさらに上の方に飛び去って行きました。蟷螂の飛翔能力ってたいしたもんですね。
それから、『俳句界』の今月号(9月号)にはこんな句が載っていました。


弟がえらそうに言ふかなぶんぶん    角光雄


「かなぶんぶん」というのは作者の造語なのだろうと思ったら、そうではないらしく、この少し後にこんな句も載っているのです。


ケチャップの蓋甘く締めかなぶんぶん    三宅やよい


そこで、『日本国語大辞典』を引いてみたら、なんだ、ちゃんと出ている。「かなぶん」を「かなぶんぶん」とも言うんですね。平畑静塔の「死にて生きてかなぶんぶんが高く去る」という句も載っていました。それからついでに「かなぶん」の方の説明も読んでみると、「コガネムシに似ているが大きく、やや扁平」とあります。僕が逃がしてやった(というより、こいつは教卓の足元に転がっていて目障りだから外に捨てた)のは、正しくは「コガネムシ」と呼ぶ方だったかもしれません。ブンブン言って飛んで行きましたけどね。


俳句界 2008年 09月号 [雑誌]

俳句界 2008年 09月号 [雑誌]



※職分=その職務にある者として当然しなければならないこと。つとめ。(新明解国語辞典第四版)