つげ義春の文章が魅力的であることは以前書いた(→もっと読みたい、つげ義春の文章 )が、今回エッセイ集『苦節十年記/旅籠の思い出』(ちくま文庫、つげ義春コレクション)を読んで、そのことを再認識した。読み応えがある文章が多くある中でも、特に良かったのが「妻のアルバイト」。エッセイとして読んでも、短編小説として読んでも、一級品を読んだ充実感を覚える。読後にじわっと幸福感が湧いて来る。
つげ義春がこれほどの書き手であるということは、相当な読み手でもあるはずだ。
「つげ義春自分史」に次の記載がある。
1966(昭41)年 29歳
白土三平のマネージャーをしていた岩崎稔氏に井伏文学を教えられ、魅了される。1967(昭42)年 30歳
井伏文学に影響され、しきりと旅行をするようになる。唯一の友人、立石氏と能登、飛彈、秩父、伊豆、千葉等へ遊ぶ。
秋に単独で東北へ大旅行する。旅の強烈な印象をもつと同時に湯治場に魅かれる。旅に関連する本や、柳田国男、宮本常一などを好んで読む。
文章家としてのつげ義春は、こうした豊富な読書体験を肥やしに生まれてきたに違いない。もっともっと書いてくれないかなあと思う。