現代文の教科書に載っている沢野ひとしの「初恋の人にあげた本」は、やってみると意外と教材として使えるのだった。そこで読んでみたのがこの本。「初恋の…」はこの中の一篇。
- 作者: 沢野ひとし
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1996/06
- メディア: 文庫
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ところで、椎名誠の「解説」を読んでいたら、沢野ひとしの初期エッセイの「共通テーマ」は「ロマンティシズムとペーソス」だと書いているのだった。やっぱり沢野ひとしを読みながら文豪井伏を思い出すというのも、決して突飛なことではないのであった。
でも、本当のことを言うと、二人の作品から漂ってくるものを「ロマンティシズムとペーソス」という言葉で片づけてしまうのは、まだ大切な何かを掬いきれていないことになるようにも思うのだ。では、それをどういうふうに説明すればいいのか。
倦怠、屈託、諦観…こんな言葉も井伏を語るときに使われる言葉だけれど、沢野ひとしの作品の登場人物たちも、時にそんな雰囲気を漂わせる。若い時にとらわれがちな、後ろ向きの情念とでも呼びたいものを。それは、青春にとって、普遍的な心情かもしれない。