ハネる? ハネない?

阿辻哲次『漢字を楽しむ』は、漢字の世界の奥深さをあらためて教えてくれる、本当に楽しめる本ですが、ここに書かれていることのいくつかは、教室で漢字を教える者がぜひとも知っていなければならないことだと感じました。
漢字の書き取りテストの採点基準について、僕はどちらかといえば甘い方でした。ハネるとかハネないとか、付くとか付かないとか… だって、僕自身がよくわかっていないんだから、生徒に対して厳しいことは言えません。
『漢字を楽しむ』を読んで、安心しました。これからは、よくわからないからではなく、確信を持ってどちらも○です。
たとえば、「環」の右下の縦棒の「ハネる・ハネない」はデザインの差に過ぎず、どちらの書き方でもかまわないのだということを、著者は歴史的にも様々な書体が存在していたことなどを傍証として挙げながら明らかにします。そもそも「木」「環」などの縦線下部のはねるか、とめるかについては、「常用漢字表」の「(付)字体についての解説」にどちらも可であることがちゃんと明記されているということなのです。さっそく僕も調べてみましたが、確かにそのとおりでした。
世の中には、漢字のハネの有無などが辞書のとおりでないとバツにする厳しい先生がいるようですが、著者はそうした指導のあり方をはっきり否定します。

私たちはなんとなく、手で書かれた漢字よりも印刷された漢字のほうが「正しい」、あるいは「規範的である」と感じてしまうものだが、それはまったく単純な思いこみにすぎない。印刷された形が見栄えのよさを求めて設計されたデザインの結果であることが、とくに学校教育の現場でもっともっと認識されるべきであると私は考える。

漢字を楽しむ (講談社現代新書 1928)

漢字を楽しむ (講談社現代新書 1928)

ところで、漢字能力検定試験の問題には、「次の漢字の太い部分は、筆順の何画目か」というような問題があるようです。この筆順について、阿辻哲次は「筆順とは、過去の長い時間に漢字を書いてきたあいだに定着した慣習にすぎない」と言い、また、昭和33年に文部省が出した「筆順指導の手引き」についても、

あくまでも漢字の書き方を指導する際の便宜の一つと考えるべきものにすぎない。文部科学省が制定した教科用図書検定基準では、筆順は「一般に通用している常識的なもの」によることとされていて、「手引き」にあるとおりに教えなさいとはひと言もかかれていないのだ。

と言います。すると、漢字検定の筆順を問う問題は適切ではないということにならないでしょうか。


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