サンに登る。

「山」という漢字を「サン」と読むのが音読みで、「やま」と読むのが訓読みであるように、「絵」という漢字は音が「カイ」、訓が「え」だと思っていた。
ところが、違うんですね。「絵」の読みの「カイ」も「エ」もどちらも音読み。「絵」の訓読みは、ない。つまり、「絵」という漢字が入ってきたとき、日本には「絵」を表す日本語がなかった。
高島俊男『漢字雑談』に教えてもらいました。

漢字雑談 (講談社現代新書)

漢字雑談 (講談社現代新書)

「絵(エ)を描く」と言って、何の違和感もないのは、今ではそう言い方にすっかり慣れてしまったからで、実は「山(サン)に登る」と言っているのと同じようなものだったのだろう。(高島俊男は、「『ゑにかく』は『ピクチャーにかく』のような言いかただ」と言っている。)「絵心(えごころ)」や「絵筆(えふで)」を、「絵心(えしん)」とか「絵筆(えひつ)」と言わないのは、「絵(え)」がすっかり日本語化(訓読み化)してしまったことを表しているのだろう。
中国から漢字が入って来るまで日本人は文字を持たなかった。だから、「字」を表すやまとことばがなかったのは当然だ。(だから、「字」の読みの「ジ」が音読みであることは納得。)しかし、字は書かなくても絵は描いたであろうかつての日本人が、「絵」を表す言葉を本当に持たなかったのだとしたら、不思議である。それで不便はなかったのだろうか?