古代の天皇の仕事

また、本棚に眠っていた本を引っ張り出して読んだ。丸谷才一「日本文学史早わかり」。

f:id:mf-fagott:20211205083541j:plain

万葉集」の巻第一の巻頭歌、雄略天皇

籠もよ み籠持ち … この岡に 菜摘ます子 …

と、それに続く舒明天皇

大和には群山あれど とりよろふ天の香具山 …

は、高校生のときに習ったような気がするし、また自分がまだ若い教師だった頃に教えたような記憶もあるが、いったいどういうことを教わった、または教えたのだろうか?
この二首の歌について、丸谷才一は次のように言う。

天皇が豪族の娘に野外で言ひ寄るところを写したほとんど儀礼的な恋歌と、国見歌とが、かういふ晴れがましいところに一対のものとして並ぶことは、恋愛と国見とが古代日本の君主にとって最も重要な仕事であったことの証拠だと言へよう。(中略)恋愛と収穫とがいづれも繁殖といふ一点でくくり得るとすれば、この呪術者の主たる責務は繁殖に関する儀礼を司ることだったと言へよう。古代日本人の最大の関心事は繁殖で、それゆゑ国王は、あるいは風景に言ひ寄る呪文をとなへ、あるいは女たちに親しむ演劇の司祭となったのである。

このような説明をされれば、万葉集の巻頭がこの歌であることが腑に落ちる。高校生だった僕は、いきなり天皇がナンパする歌で始まる「万葉集」というものを不可解なものと感じていたような気がする。いや、先生はちゃんと説明したのを、自分がぼんやりとして聞き逃しただけなのかもしれないのだが。

*********

僕が読んだのは講談社文庫だが、今では講談社文芸文庫の中の一冊として出ている。