直球勝負!

 古典を読もう、と思って最初に選んだのが『伊勢物語』。とりあえず一通り目を通したので、次に読み始めたのが『徒然草』。教科書や問題集で読んだ記憶のある章段はあまり苦労はないが、初めて読む章段は注釈を頼りにのろのろと読み進む。
 第31段は初めて読む章段ではないが、しばし立ち止まらずにはいられなかった。

 雪のおもしろう降りたりし朝、人のがり言ふべき事ありて、文をやるとて、雪のことなにとも言はざりし返事に、「この雪いかが見ると一筆のたまはせぬほどの、ひがひがしからん人の仰せらるる事、聞きいるべきかは。かへすがへす口をしき御心なり」と言ひたりしこそ、をかしかりしか。
 今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れがたし。

 以前これを読んだのはいつだったか、ひと昔もふた昔も前のことだったと思うが、その時の読み方と、今の読み方とは明らかに違ってきている。
 「かへすがへす口をしき御心なり」と言われた兼好は素直に、「確かにあなたの言う通り、自分が迂闊であった」と、自らの不明を恥じている、というのが若かりし頃の解釈。
 ところが今は、兼好が雪のことに触れなかったのは、あえてそうしたのだろうとしか思えない。誰もが雪に心をときめかせるような朝、兼好もまたそうであったのに、わざとその気持ちは押し殺して用件だけを書いてやる。さて、相手はどう応じるか?
 「あなたはそんな人だとわかっているから」と敢えて不満は口にせず、淡々と用件だけに応えるという返事も想定できただろう。でも、それでは物足りない。二人はまだそこまで狎れあってはいないのだ。「かへすがへす口をしき」と直球を投げ込まれたことが兼好は嬉しい。「今日の雪、きれいだね」というやり取りを、相手は(そして兼好自身も)望んでいるのだ。
 それにしても、今日は暑いですね。