午前零時の佐藤正午

 なぜか小説が読みたくなった。この忙しくて余裕のない時に、小説どころではないのに。学生の頃は、試験前になると授業と関係ない本を読みたくなったものだが。現実から逃げたい気持ちが働くのかもしれない。
 佐藤正午の『身の上話』が面白いと誰かが書いていたのを思い出して、古本屋に行ったら、運よく108円で手に入った。夕食が済んで、コーヒーを飲んで、夜10時ころから読み始めて、気づいたらもう日付が変わっている。ちっとも眠くならない。普段だったらとっくにベッドに沈み込んでいる時間だ。調子に乗って夜更かしして、翌日の仕事に差し支えるといけないと思うのだが、どんどん先を読みたくなる。こういう経験は久しぶりだ。佐藤正午の筆力は、大したものだと思う。
 読み終えた後にひとつ、すっきりしない点が残った。登場人物の一人、竹井という男は何がしたかったのだろう。竹井の「身の上話」が聞きたいと思った。