見える手、見えない手

「見えざる手」が経済を動かす (ちくまプリマー新書)

「見えざる手」が経済を動かす (ちくまプリマー新書)

この本は、「経済学の基礎の基礎」について考える本、とのことだけれど、「経済」という切り口から世の中のさまざまな現象の意味を教えてくれる本、とも言えそうだ。経済オンチで世間知らずの僕にはとても勉強になった。
高校の「政治・経済」の教科書の方が、内容的にはレベルが高く、情報量もずっと多いだろうが、教科書というのは概して無味乾燥で読み進めていくのが苦痛なもの。ところが、この本はわかりやすく面白く、どんどん先を読みたくなる。学問の基礎を、これほど平易に解説できる池上彰の文章力というのは大したものだと思う。
教科書もこんな文章だったらずっと親しみやすくなるだろうに。

いくら働いても、受け取れる賃金はごくわずかで、生活保護を受けるのと大差ない給料しかもらえない人たちが増大しました。「働いているのに貧しい」という意味で、「ワーキングプア」と呼ばれます。
かつて石川啄木が、
「はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る」
とうたった通りのことが、現代でも再現されているのです。
石川啄木は自分の手を見ることができましたが、「グローバル資本主義」が世界に広がったことで、「見えざる手」が世界規模で働くようになり、世界全体での格差拡大につながりました。

でも、教科書ではこんな書き方はできないんだろうな。
巻末で、「もっと知りたい人のために」として、20冊ほどの本を紹介しているけれど、僕はやっぱり同じ著者の本をもっと読んでみたい。『そうだったのか!現代史 (集英社文庫)』を読んで、「社会主義国家がなぜ行きづまったか」について考えてみようかな。