イギリスに学ぶには

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家 (新潮文庫)

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家 (新潮文庫)

60回近くも渡英したというイギリスびいきの著者によるイギリス礼賛の本。にもかかわらず、読んでいて少しもイギリスという国の魅力が伝わって来ません。著者は事毎にイギリスと日本とを比較し、イギリスの優位を主張しますが、その比較の仕方はどう見ても公平さに欠けるのです。イギリスを賛美するためには、公平さを損なおうと論に矛盾をきたそうと、そんなことは意に介さないかのようで、これでは読者の共感を得ることは難しいでしょう。
たしかにイギリスの家が景観に配慮して建てられていることや、古い家でも手をかけて大切に住み続けていることなど、住宅に関して日本がイギリスに見習うべき点は少なくないと思います。でも、そうしたイギリスの良さを際立たせようとするあまり、日本の最悪の例ばかり引き合いに出されてしまうと、国粋主義者じゃなくたってあまり愉快ではありません。
「だったらイギリスに住めばいいじゃん」と思いながらも、最後まで読んでしまいましたが、結局伝わってきたのは著者がいかにイギリスの家、イギリス人のライフスタイル、イギリス人の価値観に惚れ込んでいるかということ、それだけ。その先にイギリスの本当の姿が見えて来ないのです。
日本の住宅事情を少しでも改善しようと本気で考え、そのためにイギリスの家のいい所を取り入れようとするなら、イギリスについてその負の部分も含めて正しく理解するのでなければ、結局形だけの真似事で終わってしまうように思うのですが、どうでしょう。