ポップに釣られる

本屋のポップというのは、結構効果があるらしい。実際、僕もポップの「絶対おススメ!」といううたい文句を信じて(というより「うたい文句に釣られて」)、こういう本を買って(というより「買わされて」)しまった。

サマータイム (新潮文庫)

サマータイム (新潮文庫)

これを買った一週間ほど前、僕は蓄積した疲労のためか、持病の頭痛と眼の痛みがひどくなっていて、軽い本しか読む気にならなかった。と同時に、高校生におススメの本リストに新たな一冊を加えたいという気持ちもあって、この本が(というより、例のポップが)目に留まったのだ。
で、「サマータイム」と「五月の道しるべ」の二編を読んでみた。狙い通り、鈍痛を抱える頭にもすうっと入ってくる軽い文章なのはいいんだが、どうにも物足りない。つまらなくはない。でも、「オジサンはこんなのでは満足しないぞ!」って感じ。あのポップの「絶対おススメ!」っていうのは多分「中学生や高校生のあなたにおススメ!」ってことだったんだろう。もともとそういう本を探していたんだからそれは構わない。でも、どうなんだろう、中学生や高校生だったら、こういう小説に感動したりするんだろうか?
僕には、登場人物の存在感が希薄で、こちらにリアルに伝わってくるものがないように感じられる。それは彼らのキャラクターが単純で、わかりやすすぎるせいなのだろうか。とにかく高校生に「これ、絶対おススメだよ」って言う自信はない。
でも、こういう作品を強く支持する人も確実にいるわけで、あの「絶対おススメ!」のポップを作った人もその一人ってわけだ。それに、森絵都という人は「解説」で、この作品を「あまりにも面白く、みずみずしく、荒々しいまでの魅力を放って」いると大絶賛している。「サマータイム」は「月刊MOE童話大賞」というのも受賞している。
今度教室で、「佐藤多佳子っていう小説家知っている人、いる?」って聞いてみよう。もし「サマータイム」を読んでいる生徒がいたら、「あのラストシーン、いいよね!」って言うつもり。だって、「あれ、僕にはちょっと物足りなかったよ」なんて言ったら、せっかくの会話がそこで終わっちゃうから。生徒と会話がはずめば、まだ読んでいない「九月の雨」と「ホワイト・ピアノ」も読む気になるかもしれない。