字余りの法則

佐竹昭広著『古語雑談』を読むまで、本居宣長が発見したという「字余りの法則」というものを、僕は知らなかった。(これは国語の教師として恥ずかしいことなのかもしれないが。)

「字余りの法則」とは、字余りの句中には必ず単独の母音「あ」「い」「う」「お」の何れかが含まれている、というものだ。


年のちに春は来にけり一年を去年とやいはむ今年とやはむ


の如きである。「古今集」中の字余りの句は、例外なくこの法則に当てはまるし、「万葉集」の字余りについてもほとんどが法則から逸脱していないそうだ。逸脱しているように見える句でも、万葉仮名の読みの再点検によって、5音ないし7音の音数内におさまる読み方が導かれる場合もある。
もちろんこの法則には、日本語の音韻上にしばしば起こる、母音の重出→脱落という現象がかかわっている。

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ところで、この法則に、もう一つの母音「え」が含まれていないのはどうしてか?