僕は帯に惹かれてこの本を買ったわけではないけれど…

発達障害と向き合う』(竹内吉和著、幻冬舎ルネッサンス新書を読んだ。
この本からは、自分が今まさに職場で直面しているさまざまな問題に対処するためのヒントを得ることができた。
また、人間にとって最も基礎的な力は、耳で聞いたことをほんの30〜40秒覚えておくことができる「聴覚的短期記憶」であり、この力が弱い人間が相当数いる、というところは他人ごとではないと感じ、この知見を得ただけでもこの本を読んだ意味は大いにあったと思った。
ところが、読後に本の帯に赤く大きな文字でこんな文句が書かれていた事に気づいて、少々疑問を感じた。

会社、学校、家庭で感じる「違和感」の正体はこれだった!

「これ」とは一体何を指すのだろう、「発達障害」だろうか、「認知の凸凹」だろうか。
第五章「子どもの発達障害と寄り添う」の中には次のような記述が見られる。

LDやADHDアスペルガー症候群PDDという発達障害の原因は、「脳の機能不全」です。この「脳の機能不全」に原因のある「適応行動」の崩れが育てにくさの正体なのです。

違和感の正体は「脳の機能不全」か? いずれにしても、この本は「違和感」の正体が何であるかを解き明かすことを第一の目的として書かれたものではない。
著者が繰り返し強調するのは、人間のさまざまな能力を「聞く」「話す」などの因子に分け、そのどこに弱点があるのを正しく認識した上で、その人と(時には自分自身と)正しく向き合うことの重要性だ。そのことによって認知に極端な凸凹を持った人でも社会への適応能力を獲得していくことが可能になる。だから、

正しい科学的認識を持つことが、まず第一歩。早期発見、早期対応で症状は必ず改善する。

というのも本書の内容を正しくとらえていない。「正しい科学的認識」は症状そのものの改善ではなく、発達障害を持つ人に対する適切な支援につながると筆者は言っているのだ。(脳の機能不全に由来する症状の改善には、医療からのアプローチも欠かせないはずだが、本書ではその点にはほとんど触れていない。)
売らんがために出版社が本に巻いた帯の文句が正確に本の内容を表してはいない、というのはありがちなことのような気もするが、今回は妙に気になってしまった。