「あり得る未来」に向けて

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

環境問題だの、年金問題だのと、何だか先行き不安な世の中ですが、ウェブ進化論は人間の良識とテクノロジーの進歩がよりよい未来を切り開いてくれるのだという著者の信念に貫かれた、すがすがしい読後感を与えてくれる本です。
以前読んだ『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?』(森健著)が、いわゆるネット社会の負の側面に光を当て、たとえばグーグルの検索エンジンの持つ陥穽を鋭く指摘しているのとは好対照で、この本はそのグーグルこそがこれからの情報化社会を「善」の方向に導く新しいリーダーだとして、絶対の信頼を寄せているのです。
著者は序章で次のように言います。

本書はネット世界の最先端で何が起きているのかに焦点を当てる。情報技術(IT)ではなく「情報そのものに関する革命的変化」が今起ころうとしているのだということを、何とか伝えたいと思う。

ここで注意したいのは、この本に書かれているのは、今「起きている」ことだけではなく「起ころうとしている」こと、つまりは近未来に対する希望的観測をも含んだ内容であるということ。しかし僕は、そんないい話ばかりじゃないだろうという冷ややかな読み方をしたいとは思いません。著者と同世代の僕もまた、著者と同様、若い世代と共に学びながら、ネット社会が「善」へと向かう可能性を実現していけたらと思います。
著者は言います。

ビル・ゲイツが1955年生まれ、グーグルのラリー・ページとセルゲイ・プリンが1973年生まれ。思考実験として、18年周期で世代交代が起こるのだと仮定すれば、次に期待すべきは1991年生まれだということになる。…2010年代に、グーグルを凌駕するコンセプトと新技術を引っ提げたベンチャーが、日本から、今の中学生たちから生まれる可能性は、歴史から考えても十分に「あり得る未来」なのである。

1991年生まれの中学生といえば現在では高校生、今まさに僕が毎日教室で向き合っている生徒たちなのです! 彼らの中からもしかしたら次世代をリードする大物が生まれるかもしれない、そんなふうに考えることは(少々楽天的に過ぎると言われるかもしれませんが)、僕の日々の仕事にいい意味での刺激を与えてくれることは確かです。