『クローディアの秘密』を読んだ。名作である。
- 作者: E.L.カニグズバーグ,E.L. Konigsburg,松永ふみ子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
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「あんた方は勉強すべきよ、もちろん。日によってはうんと勉強しなくちゃいけないわ。でも、日のよってはもう内側にはいっているものをたっぷりふくらませて、何にでも触れさせるという日もなくちゃいけないわ。そしてからだの中で感じるのよ。ときにはゆっくり時間をかけて、そうなるのを待ってやらないと、いろんな知識がむやみに積み重なって、体の中でガタガタさわぎだすでしょうよ。そんな知識では、雑音をだすことはできても、それではほんとうにものを感ずることはできやしないのよ。中身はからっぽなのよ。」
これはフランクワイラー夫人がクローディアに授けた貴重な教えの一つ。この時クローディアは(もちろん、弟のジェイミーも)この言葉を理解したようには見えない。クローディアは自分の家出の原因を、自分が長女ゆえに被るさまざまな「不公平」だとまだ思っている。しかし、フランクワイラー夫人は、クローディア自身が気づいていない、彼女の家出の本当の理由を見抜いている。
クローディアは、ただオール5のクローディア・キンケイドでいることがいやになったのです。
「オール5」というのは、クローディアが何に対してもものわかりのいい、よくできた子であるという意味ももちろんあるが、よく学び、年齢相応あるいはそれ以上にしっかり知識を身につけていることも意味する。彼女が「勉強家」であることは、次のセリフによく表れている。
「人は一日に一つは新しいことを勉強したいと思わなくちゃいけないわ。あたしたちは美術館にいてさえ、そうしましたもの。」
最初の引用は、この言葉に対する反論として言われたものだ。知識より経験というフランクワイラー夫人の哲学は、「美術館の人なんか、この邸に近づけやしませんよ」というくらいの美術館嫌いにつながる。フランクワイラー夫人は、美術館の人がする「調査」「分析」「比較」、すなわち「知識」の収集・操作よりも、「経験」を重く見る。だから、ミケランジェロのスケッチを、天使の彫刻の作者を特定するための証拠として提供することはしない。それは美術館に新たな「知識」を差し出すことに過ぎないからだ。芸術作品は、知るものではなく、感じるものだ。夫人がミケランジェロの貴重なスケッチをクローディアに遺贈する決心をしたのも、美術館への家出という大胆な「経験」を企てたクローディアの、「ほんとうにものを感ずること」のできる人間になる可能性を信じたからに他ならない。