牧野信一を読んでみる(その6)

 「百年文庫」の中には牧野信一は入っているだろうか。入っているとしたら、どんな作品だろう。図書館の棚に並んだ「百年文庫」の背表紙を端からチェックする。あった、牧野信一。開いて中を見ると、作品名は「天狗洞食客」。いかにも妖しい題名。さっそく読んでみた。ぐんぐん引き込まれる。夢とも現ともつかない世界に、陶然と身をまかせる心地よさ。今まで味わったことのないような、不思議な読書体験だ。
 こんな奇妙奇天烈な発想はどうして生まれるのか、牧野信一という作家に対する興味は深まるばかり。そして、こういう作品を選んで載せてしまう「百年文庫」、やっぱり侮れない。

(059)客 (百年文庫)

(059)客 (百年文庫)

 吉田健一の「海坊主」も、小島信夫の「」も、「天狗洞食客記」同様、読者をこの世とつながるもうひとつの世界に連れ出してくれる。本を閉じても、眩暈のような感覚はしばらく消えない。