- 作者: カフカ,長谷川四郎,ゴーリキイ
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/10/12
- メディア: 文庫
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蟋蟀が深き地中を覗き込む 山口誓子
が思い浮かぶ。
カフカの「断食芸人」――
『変身』を読んだのはもう30年以上も前だろうか、それ以来のカフカ。
断食芸人というのは実際に存在したようだが、そんな職業が成立していたこと自体が、人間の不可解さを物語っている。
長谷川四郎の「鶴」――
日常(生)と、非日常(死)とが混沌と混ざり合うのが戦場。
「私」望遠鏡の中に現れた美しく純潔な鶴は、銃の一撃からひらりと身をかわして日常の側へと飛び立つ。「私」の脳裏にも「逃亡」の文字が浮かぶが、「死神の黒い影」は背後に迫る。
ゴーリキイの「二十六人とひとり」――
囚人たちに感情移入しながら読み進んできた読者は、最後の場面で少女の発する
「かわいそうな囚人たちだねえ!……」
の一言に打ちのめされ、己自身のけがらわしさに向き合わされる。囚人たちの暮らす「じめじめした石の穴」と、今自分の住む世界が全く別世界であると感じられる読者は幸せだ。