森を分け入る

に満ちた森を分け入る。
ずっと先の方を、村上春樹は歩いている。
二度三度と読み返せば、作者に追いつくことができるだろう。追い抜くことだってできるかもしれない。
でも、森の奥深くまでたどりついても、ブラックボックスの蓋を開けることはできない、多分。それはまだ作者にも開けることができないものだから。
作者はその蓋をあけるべく、とことん問い詰めることをしない。ブラックボックスは蓋を閉じられたまま次の作品に持ち越される。それが村上春樹の小説作法のようだ。それはある意味誠実な態度なのかもしれない。だって、答えはそんなに簡単に出るものじゃないから。でも、そこに村上作品の感じさせる物足りなさがあるようにも思う。
…僕は小説というものに見当違いの期待を抱いているのだろうか。
森の奥深く、もっと進んでみるべきだろうか。それともこの辺で引き返すか…
半信半疑ながら、進むしかないのかなと思う。作者や多くの読者の背中を見失わないように。

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉