音楽家の孤独

週に一回程度のペースで更新していたブログが、このところ急失速してしまって先月は一回しか記事が書けなかった。俳句誌への投句もできず、投句用はがきを無駄にしてしまった。忙しくて余裕がなかったのは確かだけれど、そんな時でもうまく気持ちを切り替えて自分の時間を確保できるようにならないといけないな。


一昨日、昨日と振替え休日が取れて、久しぶりに落ち着いて本を読むことができた。読んだのは、ネット上で目にとまってアマゾンで購入した、カズオ・イシグロの短篇集夜想曲集―音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

題名から判断してしっとりとした思索的な作品を想像していたのだけれど、実際の作品は予想以上にドタバタしたものだった。ドタバタというのは人間の相互不理解から生じる。人間同士の不理解は不用意な一言からはじまる事もあるし、距離と時間の隔たりによってもたらされることもあるだろう。その隔たりは語り合うことによっていくらかは埋まることもあるが、それぞれが自分の中に育ててきた価値観の相違は解消のしようがない。
五つの短編から無理やり共通の主題を引出そうなどとは思わないが、どの作品からも人間の孤独のもたらすやるせなさが漂ってくるのは確かだ。最後には互いの誤解が解けてメデタシメデタシで大団円を迎えるドタバタ喜劇との決定的な違いが、そこにある。ヨーロッパのそこここで音楽を愛する者同士が、出会い、そして別れていく。彼らは真の理解者に出会うことはなく、自分の置かれた境遇に満足できずにいるが、そんな自分を孤独だとか不遇だとかいう言葉で説明することはない。彼らは今現在のピンチを何とか切り抜けよう、そして次のステージを目指そうとあがき続ける、いわば行動する人であって、思索する人ではない。
思索は、本を閉じたとき、読者の中で始まるだろう。