インドの夜の旅

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

インド夜想曲 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

池澤夏樹が「一つの私的な読みとして」(『読書癖2』所収)の中で、

愉快な事件もあるしショッキングな出会いもある。しかし、全体としては要するに一人の男が友人の消息を求めて旅をする話。
文の運びは軽快で、気まぐれで、あっさりとして、理知的。意味深長に見えてさほど裏がない思索と、土地の印象を喚起する描写。作者と主人公の間でふらふらと揺れる視点。それをたどってゆくことがずいぶん豊かな快楽を与えてくれる。

と評した小説。訳者の須賀敦子によると、作者のタブッキという人は近年ヨーロッパで注目されている作家なのだそうだ。
幻想的で、ミステリアス。友人を探す旅だと思って読んでいると、最後の方で、実は…というどんでん返しがある。このあたりのからくりはちょっと凝っていて、読者は面食らいながらまた前の方を読み直すことになる。しかし、読み直したからといって話のつじつまが合って、そうだったのかと腑に落ちるというわけには多分いかないだろう。それは、主人公が探していたものが実は誰にとっても最も大きな謎である○○○○だったからなのだと思う。(この○○○○が何であるかはあえて書かないでおくけれど、勘のいい人はもうわかっちゃったかな。)