つながりを作る仕事

コミュニティデザインの時代 - 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

コミュニティデザインの時代 - 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

 この本は、僕が担任するクラスの生徒が志望している大学で、おととしのAO入試(推薦入試だったかな?)の課題図書に使われたということで、その生徒との面談の中で話題にのぼり、僕も興味を持って読み始めてみた。
 読んでみると、つい先日読んだ『日本のデザイン』と通じる部分が多く、この本もまた共感できる部分の多い、とてもよい本だと感じた。人と人とのつながりをつくり出し、地域の課題を解決していく活動の手助けをするコミュニティデザインという仕事は、学校あるいは学級という集団内の人間関係作りに腐心し、その問題解決に取り組む教師の仕事とも大いに共通点があると感じた。

 さて、「経済成長がなければ、人の幸せはないのか?」というのは経済に疎い僕が常々抱いている素朴な疑問で、同じようなことを『日本のデザイン』の時にも書いたが、『コミュニティデザインの時代』の中には次のような一節がある。

 そもそも経済(経世済民)という言葉も金だけを意味する言葉ではなかったはずだ。世の中をうまく治めて人々の幸せな生活を実現させること、つまり地域の課題を乗り越えて人々が豊かな人生を送ることが目的だった。それがいつの間にか「経済的な成功」ということになると「お金がたくさん手に入った」ということとほぼ同義になるほど、経済と金はひっついてしまった。僕らはもう一度、「経済」や「豊かさ」がどんな要素から成り立っているのか、じっくり考えてみたほうがいい時期にさしかかっている。人とのつながりや、人からの感謝や、自分の役割が増えることや、自分にできることが増えることの価値。こうしたものと金や物を持っていることが組み合わさって、僕たちの豊かさは成立しているはずだ。(「第2章 つながりのデザイン」p.82〜83)

 地球が抱える困難な課題への取り組み、すなわち温暖化問題への対処や、国際紛争の解決には、引用部から読み取れるような価値観への転換がぜひとも必要なのではないかと僕は思っている。
 今までは「経済学部って、どんなこと勉強するの?」と生徒に聞かれたら、要するにお金の流れについて勉強するところだ、などと答えていたけれど、これからは「お金と人間の豊かさについて勉強して、君なりの答えを見つけるところだよ」と答えようか、などと考えている。

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