こんなにどきどき

古川佳子句集『カルメンの顎

明るく快活。ダイナミックで若々しい。発想のユニークさにユーモアのセンスも加わって、人を惹きつける力がある…なんて書くと、まるで生徒の指導要録の所見欄みたいだけれど、これがこの句集から受けた印象。

 

  駅弁の紐をひつぱる梅ひらく

車内で弁当の紐をほどく、どこかで梅が咲く。二つの場面の強引な組み合わせだが、不思議と説得力がある。人を食ったようなぶっきら棒な言い方も面白い。

  葉桜やこんなにどきどき鬼を待つ

子供のどきどきを今も忘れていない。(作者は僕の母親の世代。)

  人間にもどり五月の森を出づ

森に入れば獣にだってなる。逞しい生命力。

  指笛に全身絞る青岬

全身を「絞る」とはなかなか言えなさそう。音は向こうの島まで届くだろう。

  初春や地べたの昼餉よく笑ふ

  三椏や応へはいつも高笑ひ

  秋晴や長寿手帳がやつてきた

長寿の源はよく笑うこと(それも、豪快に笑うこと)なのかもしれない。

  死ぬ日まで草に追はれて草を取る

「死ぬ日まで」と言い切る覚悟、見習いたい。

 

次の二句はよくわからない。それゆえ気になる句。

  冬の月今がどんどん食はれけり

「今」が食われるとはユニークな言い方。冬の月を見ていて時の過ぎ去る速さを感じたのだろうか? 丸い月が、何かに齧られて端から欠けていくようなイメージも浮かぶ。

  引つこ抜き折り嗅ぎ齧り息白し

動詞をこれでもか、と重ねている(4段重ね!)。で、何を引っこ抜いて、折って、嗅いで、齧ったのかは言っていない。 葱だろうか? 大根だろうか? いずれにしろ、従来の俳句イメージを突き破る、逞しさを感じさせる句だ。

 

最後に、好きな句。

  投函し海月を数へつつ帰る

  秋の空舌診る医師も舌を出す