言葉と思考

今井むつみ言葉と思考』(岩波新書

本書を貫いているのは、使用言語が異なれば認識や思考の仕方も異なるのか、あるいは、言語の異なる話者同士が理解しあうことは可能なのか、という問いだ。
様々な実証実験を通しての結論は、言語の違いが認識の違いにつながる事例もあるし、そうでない事例もある、という「どっちつかず」ともいえるものだが、これは誠実な答えと評価すべきだろう。
著者は言う。

言語と思考の関係を考える場合に、もはや、単純に、異なる言語の話者の間の認識が違うか、同じかという問題意識は、不十分で、科学的な観点からは、時代遅れだといってよい。今私たちがしなければならないことは、私たちの日常的な認識と思考――見ること、聞くこと、理解し解釈すること、記憶すること、記憶を思い出すこと、予測すること、推論すること、そして学習すること――に言語がどのように関わっているのか、その仕組みを詳しく明らかにすることである。(214㌻)

言葉と思考の関係を追究していくと、一つの問いがまた次の問いを呼び寄せる。奥が深いのである。