人生観を変える旅

 14年ぶりに、沢木耕太郎の『深夜特急』の続き(2巻~)を読み始めた。第1巻をあんなに面白がって読んだのに、

https://mf-fagott.hatenablog.com/entry/20060517

なぜかずいぶん間隔があいてしまった。

深夜特急3―インド・ネパール― (新潮文庫)

深夜特急3―インド・ネパール― (新潮文庫)

 

  遠出のしにくい日々が続いているせいか、これを読んでいると外に連れ出されたようなスリルと爽快感を味わえて、どんどん読み進む。

 今、インドから国境を越えてパキスタンに向かおうとしているところ。いあや、インドはすさまじかった。人生観を変えようと思ったら、インドに行くべきかもしれない。日本では思いもよらないことが次々に起こる。

 仏陀が悟りを開いたというこの村は、皮肉にも天然痘の最新流行地のひとつだった。髪の長かった食堂の少年が、翌日会うと一本の弁髪を残して丸坊主になっている。昨日、妹が死んだからだという。インドでは近親者が死ぬと男はこのように頭を丸めるものらしい。そう知ってあたりを見廻すと、どんなにその頭の多かったことか。少年のいれてくれたチャイを飲みながら、妹さんが死んだ原因を訊ねると、やはり天然痘だという。日本の厚生省の役人が聞いたら卒倒してしまうかもしれない。妹が天然痘で死んでいるというのに、兄は隔離もされず、しかも客に飲食物を出している。

  ブッダガヤでは、身の周りにそんなことがいくつも転がっていた。(第4巻、第10章 峠を越える)

 インドでは新型ウイルスが猛威を振るっているようだが、沢木耕太郎が旅した頃と、衛生環境はあまり変わっていないのかもしれない。そうだとしたら、あれほどの感染者が出てしまうのも当然ということだろう。感染症の流行と貧困問題は切り離すことができない。