中島敦展

 神奈川近代文学館で開催中の「中島敦展―魅せられた旅人の短い生涯」を観て来た。

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 「文芸ストレイドッグ」なるものの影響か、いつもより若い女の子が多いような気がした。会場に用意してあるワークシートに記入して売店で見せると、その文芸ストレイドッグスのイラスト入りのクリアファイルがもらえる。僕も若い女の子たちに負けじと、せっせとワークシートに答えを書きながら、真剣に展示を観て回った。

 今回の展示は、なかなか面白かった。その要因の一つは、中島敦が南島での生活を経験していることにある。中島敦の作家としての土台を築いたのは漢文学だったり、英文学だったりするのだろうけれど、南島での見聞が中島敦のものの考え方に与えた影響は大きかったようだ。また、南島から長男の桓に宛てた絵葉書などが、展示物をバラエティー豊かなものにしている。敦はよき父親であった。

 それに、横浜に住んでいた時には、ガーデニングに夢中になって、パンジーの絵も描いているし、音楽にも興味を持ってコンサートにもしばしば通っている。多彩な趣味の持ち主でもあったのだ。だから、33年という短い人生だったけれども、多くのものを残すことになった。

 午後、中央大学教授・山下真史氏の講演会も聴いてきた。中島敦の文学を、時代状況との関りにおいてとらえることによって、見えてくるものがある、という内容。

 行き帰りの電車の中では、「李陵」を初めて読んだ。「漢書」を典拠として書かれた文章は、読みやすくはないが、中身は濃い。疲れたけれど、充実した一日であった。  

李陵・山月記 (新潮文庫)

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