素敵な句集をご紹介します。街同人の長岡悦子さんの『喝采の膝』。
空港出て揚雲雀目に痛きまで
飛行機の旅では、我々はしばしば目的地から離れた、荒涼としたという形容が当てはまるような景色の中に降ろされる。そこからバスやタクシーで目的地に向かう、というのは現代の旅の一つの形であり、そこに現代的な旅情もある。観光地の景観よりも、空港から街へ向かう途中に見上げたまぶしい空の色と雲雀のさえずりが忘れられない、ということもあるだろう。
山桜ブリキの金魚目が大き
「ブリキの金魚目が大き」というのがまず一つの発見。さて、小さなフレームの残された余白に、どういう季語を配するか? 「〇〇〇〇〇」、「〇〇〇〇〇」、いろいろ試してみるのだが、やっぱり「山桜」で決まり!
黒板に明日の日付鰯雲
日中の喧騒が去った教室は、静寂の中に暮れようとしている。きれいに拭かれた黒板の右端には、きっと来るはずの明日の日付が書かれている。
賑やかな父の葬列柳絮飛ぶ
生前、私の父が「俺の葬式は湿っぽくやってくれるな、ぱあっと明るく騒いでくれ」と言っていたのを思い出す。この句の葬儀も、故人を慕う人たちが大勢集まって、賑やかだ。遺影を先頭に進む親族の頭上高く柳絮が舞っている。
大柄でよく笑ふ子や夏蜜柑
凩やぽんと明るく伊勢うどん
こんな屈託のない句が見つかるのも、この句集の魅力。
■最近の「街」同人の句集