ゴッホを読む

 僕がこれまで読んだ、「絵」について書かれた本の中では、これが一番面白かった。筆者の批評眼は鋭いし、語り口も読者を退屈させない。名エッセイとの評価もあるようだ。僕は古本屋で見つけた単行本を読んだのだが、今は文庫になっている。内容的に古びた部分はあるにしても(初版は1976年)、読み物として魅力的なこのような本は文庫にして残す価値がある。

絵とは何か (河出文庫)

絵とは何か (河出文庫)

 

  「絵とは何か」という問いに答えることは、ゴッホを理解することである、と筆者は考えている。しかしゴッホを理解するとは、どれほどの難事業であることか。筆者は言う。

絵は見られると同時に読まれるべき物である。『カラマーゾフの兄弟』をたった一日で読了するのが不可能なように、ゴッホの《烏のむれ飛ぶ麦畑》を数分間で読むことはできない。
しかし、一人の画家が、それもゴッホのように異例の画家が精魂こめて描いた絵を、なぜ、どうしてと絶え間ない質問をくりかえしながら読まなくては、作品を理解することにはならぬだろう。(ゴッホの遺書)

  「絵とは何か」という問いは、実に重い問いなのである。