島尾文学と夢

 島尾敏雄の『過ぎゆく時の中で』というエッセイ集が、本棚の中で眠っていた。昭和58年発行。たぶん教材研究のために買ったのだと思う。「横浜生まれ」という文章に印が付いている。「横浜出身の作家だよ~」とか言って、生徒の興味を惹こうとたくらんだのだろう。その作戦は空振りに終わったにちがいないのだが。そもそも教科書の作品は何だったんだろう?

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 ところで、この中に「夢について」という文章(講演筆記)がある。その中で島尾敏雄はおよそ次のようなことを言っている。


 私は小説を書きながらも、自分の想像力を非常に貧しいと考えている。貧しい想像力で自分の経験の中からイメージを掘り起こしていかなければならない。その経験を、目を覚ましている現(うつつ)の時の経験の他に、夢の中の経験もあると考えてみると、そこまでイメージをつかむ「狩猟場」を広げてもいいんじゃないか、ということになる。夢というのは、現でいるときよりはずっと自在だ。それは自分の文学に、ある解放と豊かさをもたらしてくれる気がする。


 この著作の中には、他に「夢と私」「夢見と行歩」「夢の綴り」と、夢に言及する文章が多く含まれていて、島尾文学と夢の関りを探る手掛かりを与えてくれる。