白い箱

 「なぜ?」は大事。理解の深まりは「なぜ?」から始まる。
 ところが次の「なぜ?」は思い浮かんだことがなかった。

なぜ、多くの美術館の展示室は、そろいもそろってこんなに真っ白なのでしょう。

 絵を白いカンヴァスや紙に書くのが当然であるように、絵を白い展示室に飾るのは当然のように感じていた。ところが、白い壁に囲まれた展示空間(=ホワイトキューブ)の始まりは1929年開館のニューヨーク近代美術館からだというから、意外と歴史は浅い。
 ホワイトキューブは、「政治的、社会的、思想的な場の関係と作品の関係を切断して、作品に自立性を与える」という効用を持つ。つまり、そこでは鑑賞者は予備知識がなくても、自分の感覚や思考力を頼りに目の前の作品と向き合うことができる。そこは現実社会から解放され、アートの鑑賞に集中することのできる、非日常の空間である。
 一方では、そのように非日常の空間に閉じ込められたアートを、もう一度外に引っ張り出そうという様々な試みも存在する。現代アートは実に混沌としている。