女性の俤

 恋と呼べるほどにも育っていない女性へのほのかな想いは、突如その女性が姿を消してしまうことで、喪失の悲しみに変わる。いや、女性の不在という現実が、女性に対して想いをいだいていた自分自身に気付かせる。そして、女性の俤はいつまでも心の中で消えることはない。「山の手の子」(水上瀧太郎)の「お鶴」、「千鳥」(鈴木三重吉)の「藤さん」がその女性だ。

(061)俤 (百年文庫)

(061)俤 (百年文庫)