祝「田中裕明賞」受賞

 久しぶりに清水哲男の『増殖する俳句歳時記』を開いたら、北大路翼

交番に肘ついて待つ春ショール

の句が目に飛び込んできた。大写しになった横向きの人物の表情からやるせなさが伝わって来る、いい句だなあ…
 と思った数日後、今度は同氏の句集『天使の涎』が「田中裕明賞」を受賞したとの情報を目にした。そういえば、『天使の涎』は昨年購入して一度目を通したが、ブログで取り上げるのはもう一度ゆっくり読んでからにしようと思い、そのままになっていた。これを機に、もう一度最初から読みなおして駄文を綴ってみようと思い立った次第…

天使の涎

天使の涎

 『天使の涎』を開いてまず驚くのは、収録句の多さ。1ページ当たりぎっしり13句が詰め込まれている。普通の句集は行間を広く取って、1ページに2〜3句。さながら一句ずつが額縁に収められた絵画のようなもので、読者は一枚一枚の絵の前で立ち止まるようにして、味わいながらゆっくりと歩を進める。ところが、この句集はそんな読み方を許さない。一句ずつ立ち止まっていたら、全部読み終わらないうちにへばってしまう。それに、この句集は句と句の連続性に意味がある。たとえば、

客引きの皮手袋が背後より
電柱に嘔吐三寒四温かな
キャバクラの自動延長寒昴
春が来るすなはち春の歌舞伎町
啓蟄のなかなか始まらない喧嘩
太陽にぶん殴られてあつたけえ

のような一連の句を読むとき、作者の暮らしぶりをのぞき見するような面白さとある種の爽快さを感じることができる。この句集を読むには、スピード感が求められるのだ。次の野菜シリーズも、テンポよく読んでください。

隙間まで緑色なるブロッコリー
殴られたやうな折れ方してセロリ
リーだけは伸ばして欲しいブロッコ
ありさうでどの芽キャベツも顔がない
白菜の重さは頭痛なのだろらう
折られてもいい長葱の青いとこ

とは言うものの、いつものように、一句ずつ吟味してお気に入りの句に○を付けながら読みたいという欲望を抑えることも難しい。だって、最初に挙げた「交番」の句のような名句が見つかれば儲けものだから。というわけで、僕が丸を付けて読んだ句より。

つつかけで出て春泥に舌打ちす

浅春の早番遅番すれ違ふ

雪解けと言へば失禁美しく

百千鳥起きる準備の準備して

目の汗を汗かいてゐる手で拭ふ

顔洗ふやうに西瓜にかぶりつく

虫籠に葉が敷き詰めてあるばかり

切り出せぬ話題湯豆腐揺れてをり