「旅」は好きな漢字の一つだ。
「旅」という文字がタイトルに含まれる本は、思わず手に取ってしまう。
- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1992/10
- メディア: 単行本
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しゃれた装丁のハードカバーで定価は1,400円。状態が良ければ500円くらいの値は付くのだろうが、僕が手にしたのは、カバーはかなり黄ばんでおり、紙魚も目立つので、200円という価格は妥当だ。気になる文章だけ読んで、処分してしまっても惜しくはないが、結局全部読んでしまった。
池内紀の旅は、いつでも一人旅だ。異国を一人で旅する人は、しばしば感傷的になる。だから、池内紀の文章はいつでも少し、湿っぽい。
名物さざえの壷焼きをサカナに酒を飲んだ。灰皿がわりに牡蠣の殻が置いてある。不格好な牡蠣。灰色をしていて、でこぼこで、塩のあとのように何やらかたまってくっついている。
ふと手にとった。なぜかもどす気になれない。涙ぐみさえしそうになる。つまりがこいつ、中年の自分たちとそっくりではあるまいか。生きるために戦ってきた。岩の上にしがみついて奮闘してきた。その結果のいびつさ、でこぼこ、付着物。
酒がほどよくまわってきた。西の空がこころもち明らんできたようだ。百円コインの運勢占いによると、この年の後半に目出たきことのあるよし、期待すべしとのこと。気をよくしたついでに、お銚子のお代わり。
(「幻の貝をもとめて 相州江の島をさまようの巻き」より)