本がなくても…

 どこに行くにも本は必ず持って出る。
 電車での移動中、病院の待合い室での待ち時間、宿泊先の夜のひととき‥貴重な読書のチャンスは逃してはならない
 本を読む絶好のチャンスなのに、手元に本がない! などという失態をおかしてはならないのだ。
 村上春樹は、「一冊だけ本を携えて無人島に行くとしたら何を持っていくか」という設問について、

僕は自分の小説を持っていきますね。そして毎日それを読んで「あー、ここはいかん」とか「ここはこう変えちゃおう」とか、コツコツ とボールペンで書きこみをする。これをやるとかなり時間がつぶせそうだ。もっともそんなことをしてると一ヶ月くらいでまったく別の小説に生まれ変わっちゃいそうだな‥‥と考えていくと、何のことはない、本なんか持っていかなくったって自分でどんどん小説を書いちゃえばそれでいいんじゃないか、ということになってしまう。こういう点小説家というのは便利である。(「無人島の辞書」、新潮文庫『村上朝日堂 はいほー!』所収)

と書いている。
 だったら…と僕は考える。俳句をつくる楽しみを知っている人間であったら、本がなくても頭の中で俳句をどんどん作っちゃえばそれでいいんじゃないか。本がなくても、時間を持て余すことがない。むしろ、俳句を作るチャンスだ…とは思うんだけど、やっぱり手元に読む本がない、というのは寂しいんだよなあ。