- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/03/10
- メディア: 文庫
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それはともかく、彼の小説を読んでいて文句なく感心させられるのは、卓抜な比喩。それから、音楽の登場のさせかた。こんな状況で聞くなら確かにこの曲だろうなあ、というような納得の曲目選択をする。
僕は湯をわかしてもう一杯コーヒーをいれ、今度はちゃんとスプーンでかきまわして飲んだ。カセット・デッキのスイッチを入れると天井につけた小さなスピーカーからバッハのリュート曲が流れた。スピーカーもデッキもテープもみんな渡辺昇が家から持ってきたものだった。
悪くない、と僕は今度も口に出さずに言った。四月の暑くもなく寒くもない曇った夕暮にバッハのリュート曲はよくあっていた。『双子と沈んだ太陽』)
僕がこの小説を読んでいたのもちょうど四月の暑くも寒くもない四月の夕方。バッハのリュート曲を聴かずにはいられない気分になってしまった。
先週のぶんの日記をぜんぶつけてしまうと、僕はレコード棚の前に座って、強風の吹き荒れる日曜日の午後に聴くにふさわしいと思える音楽を選んでみた。結局ショスタコヴィッチのチェロ・コンチェルトとスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンのレコードが強風にふさわしい選択であるように思えたので、僕はその二枚のレコードをつづけて聴いた。(『ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界』)
クラシックの中でもさほどポピュラーではない通好みの曲に、ジャズかロックを組み合わせるというのは村上春樹の小説の登場人物がよくやる手だ。もちろん、そこには村上春樹自身の美学が反映しているだろう。
今度、風が強くて自転車で出かける気になれない日曜日は、ショスタコのチェロ・コンチェルトを聴いてみようか…