登山家、山口誓子

僕に俳句の魅力を教えてくれたのは、小学校の教科書で出会った


夏草に汽罐車の車輪来て止る


だ。そのせいか、山口誓子と言えば、


七月の青嶺まぢかく溶鉱炉
夏の河赤き鉄鎖のはし浸る



のような、自然の中に現代的な人工物を配した句を作る人という印象が強い。
だから、こんな句集が出ているのが、ちょっと意外な感じがした。

山岳―山口誓子句集 (ふらんす堂文庫)

山岳―山口誓子句集 (ふらんす堂文庫)

これを読むと、山口誓子は全国のさまざまな高山を訪れていたことがわかる。


阿蘇凍みて黄なるカレーの飯を食ふ
乗鞍の諸嶽ずつぷり霧浸し
伊吹山眉間に縦の雪残る
月山の襞に残れる雪の意味
富士の壺覗けば底に衝き當る



その他、多くの山名が句中あるいは前書きの中に現れる。もちろんそれらすべての山頂を極めたわけではないかもしれない。
しかし、次のような句を読むと、誓子が山を遠くからただ眺めていただけの人でないことが了解される。


頂上の平を霧の流れに踏む
柿を頒てば岳人の直ぐに食ふ
冬山に會ひて別れて身明さず



これはどこの山でのことだろう。髭の登山者を描いた畦地梅太郎の版画を思い浮かべてしまう。
山の眼玉 (平凡社ライブラリー)

山の眼玉 (平凡社ライブラリー)