人間グールド

映画グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』を観てきた。
グールドを愛した美しい女性たちの証言によって、人間グールドの本質に迫ろうとするドキュメンタリー映画。グールドの繊細な面も、人懐こさも意固地な面も、ひっくるめて彼の魅力であり、それがあのような演奏につながったのだと納得する。
グールドは晩年、安定剤などの薬を多用し、それが彼の命を縮めてしまう一因となったようだ。グールドの身近に彼の健康を気遣う女性がいれば、もっと多くの仕事を残すことになった可能性もあった。彼の録音をもっと聴きたかった人間にとっては残念なことだが、彼自身50歳で死ぬのだと断言していた通りになったわけだら、本人はやりたいことはすべてやりつくしたということなのかもしれない。
年末年始は、このごろはつい億劫で聴かなくなってしまったアナログレコードを引っ張り出して、グールドのバッハでも聴いてみようかと思う。こんな気持ちになったのは、もちろん映画が面白かったせいもあるけれど、村上春樹の文章にちょっと刺激されたせいもある。レコードに比べてCDというのはどこか味気ない。

それにしても、LPレコードというのは、音楽の容れ物としてよくできていると思いますよ。CDが登場して以来、LPを売ってCDに買い換える人がたくさんいるけれど、僕はいまでもよくCDを売ってLPに買い換えたりしています。ひとつには、音楽というのはできるだけオリジナルに近い音源で聴くのがいいと考えているからです。だからCDの登場する以前の音楽は、なるべくならLPで聴きたい。村上春樹『雑文集』の中の「余白のある音楽は聴き飽きない」より)

もっとも、グールド本人は新しいメディアに飛びつく方のタイプの人間かもしれない。2回目の録音の「ゴールドベルク」は最初からCDで出たんだっけ?

村上春樹 雑文集

村上春樹 雑文集